全 情 報

ID番号 00567
事件名 国家賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 日本燃化機製造事件
争点
事案概要  解雇予告除外認定の申請に対し労基署長の裁定が遅れたことにより損害がこうむったとして会社が国を相手どって損害賠償の請求に関して労働基準法二〇条一項但書の意義が争われた事例。(会社側敗訴)
参照法条 労働基準法19条2項,20条1項,2項
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 天災事変
裁判年月日 1955年4月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (ネ) 1467 
裁判結果 棄却
出典 時報51号19頁/東高民時報6巻7号151頁/タイムズ54号28頁/訟務月報1巻4号108頁
審級関係
評釈論文
判決理由  右規定(労基二〇条但書)は「やむを得ない事由」というように抽象的文字を以て表現しているから各具体的場合に当てはめてこれを理解しなければならないことは勿論であるが、法文に「天災事変その他やむを得ない事由のため云々」とあるところからして火災、洪水、地震その他戦争等不慮の災害をはじめ事業の継続を不可能にする不可抗力的の事実を意味するものであって、従って、使用者が、故意又は重大な過失によって事業の継続を不可能ならしめた場合の如きは茲に「やむを得ない事由によって事業の継続を不可能にした場合」に当らないと解釈しなければならない。すなわち法文に、「天災、事変その他やむを得ない事由云々」とあるから、この「やむを得ない事由」も天災事変と同様な不可抗力によって生じたものに限るものと解すを相当とする。もし、そうでないとしたならば、使用者の故意又は重大なる過失に原因する行為の責任を労働者に転稼する結果を招来する場合も生ずべく、かくの如きは労働条件を適正化し、労働者の生活を保障し、その地位を保護せんとする労働基準法の立法の本旨を没却するにいたるものといわなければならないからである。
 (中 略)
 およそ、労働基準法第二十条第二項において準用する同法第十九条第二項により行政官庁に対して、やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったことについて認定の申請があつた場合には行政官庁は、できるだけすみやかにこれを処理し、認定するか否かの裁定を下さなければならないことは事の性質上当然である。しかしその裁定は具体的事案の内容いかんすなわち「やむを得ない事由」の内容いかんによって遅速あるを免れないことも亦当然である。これ、法律において裁定につきなんら期間に関する定めをしなかったことによっても自明である。而して事案が複雑で、その判断が困難な場合には、事件の処理に相当の日子を要したとしてもそれだけでは行政官庁に事務処理上怠慢ありとなし得ないのは勿論義務違背ありとして不法行為上の責任を問う訳にはゆかない。すなわち、かかる場合行政官庁は具体的事案につき詳細調査し、確信を得て初めて認定するかどうかの裁定をなすべきものである。けだし、行政官庁の裁定いかんは労働者の生活に重大な影響を及ぼすものであって確証を得ざる儘に急速かつ形式的審査の下にたやすく認定しなければならないものとすれば、労働者の権利はおびやかされる結果を招来し、労働者の保護のため定められた労働基準法第二十条の立法の趣旨は没却されることとなるからである。しかして前記認定した事実によれば、Aは勿論Bは本件申請については終始「やむを得ない事由」にあたるや否やについて軍政部側控訴会社側労働者側等につき調査をしたが適正な判断をするまでの資料を得られず、第一回の申請については約二週間、第二回申請については約十八日間内に認定または却下の裁定を下すを得なかったのであったが、もとより本件事案は事、占領軍の軍政部の発した停止命令に関するものであった関係上容易にその命令をだした真相をつかみ得ない事情にあって、この方面の事情がすみやかに結論に到達することに重大の障碍となったばかりでなく、他面本件認定の申請あるや労働者側がこれを知りその結果、控訴会社と労働組合との間に団体交渉が開始されたのであるが、かかる場合行政官庁としては労使双方間において円満妥結することを希望することは労働行政を担当する本件公務員等としては当然の考えであって折角の団体交渉中その情勢を介意せずして「やむを得ない事由」に当るか否かを判定するごときことは労使いずれかを有利な立場におく結果となるから本件の関係担当官としては、しばらく事態を静観したとしてもまたやむを得ない措置というの外なく、これをしも職務怠慢なりとして責めることは当らないものというべく、いわんや、控訴会社から示された労働協約書(甲第十一号証)第七条に「国家的要請に依り工場閉鎖の止むなきに至りたる場合爾後の処置に関しては其の際双方協議の上善処方を決定するものとす」との条項あることを既に了知しているにおいておやである。すなわち以上説明した事実関係の下においては本件公務員等が本件第一、二回の申請につき前記の期間内に判定を下さなかったことを以て直ちに職務上の義務に違背したものとすることは妥当でなく、従って本件公務員等に本件裁定をしなかったという不法行為の責任ありとなすを得ざるものである。