全 情 報

ID番号 00616
事件名 仮の地位を定める等仮処分申請
いわゆる事件名 米沢製作所事件
争点
事案概要  経営危機打開策の一環としての人員整理として、既婚および二五歳以上の女子従業員を対象とする希望退職募集が行なわれた後、指名解雇された女子従業員らが、従業員としての地位保全、賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部却下)
参照法条 労働基準法3条,4条,89条1項3号
日本国憲法14条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1976年9月24日
裁判所名 山形地米沢支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 6 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例264号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔解雇―整理解雇―整理解雇の要件〕
 一般に整理解雇を行うには、要するに、1、(一)客観的にみて高度の経営危機が到来し、主観的にその到来につき放漫経営などの重大な帰責事由がなく、(二)客観的にみて人員整理以外にはもはや有効な危機打開策がなく、主観的に人員整理を回避しえなかったことにつき使用者に他の相当な危機打開策を講ぜず、または経営上著しく不当な措置を講じたなどの重大な帰責事由がないこと、および2、余剰人員の選定につき違法または著しい不当のないことが必要であると解すべきであり、これらの要件を具備しない整理解雇は解雇権の濫用または公序違反として無効であるというべきである。
 右認定事実によれば、債務者は、昭和四九年初頭主として受注の激減と人件費の圧迫という外的要因によって経営状態が悪化し始め、同年九月ころには危機状態に陥り、その後も逐次その深刻さを増すばかりとなり、何らかの危機打開策を講ずる必要性に迫られていたものと推認することができる。
 右認定事実からすれば、債務者は、昭和五〇年二月初めまでに経営危機打開のために相当な経営努力を傾けたものと評価することができ、かつそれにもかかわらず右時点において一〇〇名以上の余剰人員を抱えた深刻な経営危機の状態にあるわけであるが、右経営危機を打開し根本的に企業再建を図るための有効な対策としてはもはや右余剰人員の大半について人員整理を行う以外には考えられず、従って債務者の計画した八〇名程度の人員整理はそれを行うべき必要性があったものということができる。
 (中 略)
 債務者が昭和五〇年二月初めに計画した八〇名程度の人員整理は客観的にみてそれを行うべき必要性があり、かつこれを主張することを許すべきでないような主観的な特別の事情もないのであるから、右人員整理の一環として行われた債権者両名に対する解雇はこの限りにおいては権利の濫用とはいえず、債権者らのこの点に関する主張は採用できない。
 (中 略)
 債務者は、一般的に既婚の女子は退職しても夫の収入があるから、比較的生活に困窮しないと主張するが、右主張は、例え女子世帯主を例外として考えていたとしても、まさに女子に対する差別的見方にほかならず、女子のみを希望退職募集の対象とすることの合理的な根拠になりえないことは多言を要しない。
 (4)従って、女子従業員にのみでなく男子従業員にも余剰人員が発生しているのにもかかわらず、合理的な理由がないのに、女子従業員のみを対象とした募集基準は、女子に対する差別待遇にほかならず、憲法一四条、労働基準法三条、四条の精神に違反する違法なものである。
 (中 略)
 債権者両名に対する指名解雇は、既婚の女子および二五歳以上の女子という違法な募集基準に基づいて行われた希望退職募集と同一の違法な整理基準に基づいて行われたか、あるいは、少なくとも右違法な募集基準と密接に関連した違法な理由に基づいて行われた解雇であるということができ、いずれにしても労働基準法三条、四条によって認められる労働法の公序に違反し無効であるといわなければならない。
 〔解雇―解雇の承認・失効〕
 右認定事実によれば、債権者Xは、単に解雇の通告を受けた際予告手当、退職金等を異議なく受領したということにとどまり、自己に対する解雇の無効を争う利益を放棄する旨の意思を表示したことを推認させる発言は全くないことおよびその前後の債権者Xの言動を考えると、債権者Xの主張するその余の事実について判断するまでもなく、債権者Xが解雇の通告をうけた際突然にしてこれを承認しその無効を争う利益を放棄したとは到底認定することができない。