全 情 報

ID番号 00621
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 八戸鋼業事件
争点
事案概要  不況下で操業停止に追込まれた鋼材メーカーが行った整理解雇の対象となった労働者が、従業員としての仮の地位の保全を求めた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法20条,89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1977年2月28日
裁判所名 青森地八戸支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 106 
裁判結果 認容
出典 時報870号106頁
審級関係
評釈論文
判決理由  企業がその存立維持のため従業員の責によらない事由によって解雇しようとする場合には、信義則上、第一に、解雇をする前にこれを回避するため十分なる努力をすると共に、それが避けられず解雇をする場合には解雇による従業員の犠牲を最少限にするための努力をすること、第二に、解雇するにあたっては、従業員に対し(組合がある場合には組合を通して)、事前に、その解雇のやむを得ない事情と解雇の規模、時期、それに再雇用の予定があればその規模、基準、条件などについて、十分説明をし、従業員の納得を得られるように努力することが要請される。しかして、使用者がその義務に違反して従業員を解雇した場合には解雇権の濫用として無効となるものと解される。
 そこで以下これらの点について検討する。
 (四)第一点について
 会社は、かって経験したことのない深刻な不況に襲われたため、第一次操業停止、第二次操業停止、一時帰休、そして本件解雇と順次これを克服する方策を講じ、もって企業の存立維持を図ってきた。しかしながら、次に述べるとおり、会社は、解雇に先立って検討すべき希望退職者の募集、関連企業への配転など解雇を回避するための努力を怠り、また解雇にあたって検討すべき再雇用の保障、再就職の斡旋など従業員の犠牲を最少限にするための努力をも怠っていたものと認められる。
 (中 略)
 (五)第二点について
 《証拠略》、それに前記解雇の経緯を併せ考えると、会社が組合に対し解雇の可能性のあることを言い出したのは昭和五〇年五月二八日のことであるが、その後、同年六月二七日の本件解雇通告のときまで会社は、組合ないし従業員に対し事前に解雇の必要性、時期、規模などについて、何ら説明をしておらず、同日以後も数回にわたって団体交渉がもたれたにもかかわらず、会社は、その際も、この不況を乗りきるためやむをえない措置である旨を抽象的に述べただけで、解雇の必要性などについてなんら具体的説明はしていないことが認められる。また、会社は前記のとおり操業再開のときは被解雇者の中から相当数を再雇用する方針であるにかゝわらず、その再雇用の規模、基準、雇用条件などについて組合に対しても全く説明をしていない。してみると、会社は本件解雇にあたって組合に対して事前にその解雇のやむをえない事情等を十分説明して納得のえられるようにする努力を欠いていたものと認められる。
 (六)以上のとおり、会社は、企業の存立維持に急なあまり、解雇の前及び解雇にあたって信義則上なすべき右第一、第二の各義務を怠ったものであって、総じて従業員に対する配慮を著るしく欠いていたものということができる。したがって、本件解雇は解雇権の濫用といわざるをえない。