全 情 報

ID番号 00673
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 山梨貸切自動車事件
争点
事案概要  ユニオンショップ協定に基づき使用者がなした解雇につき、組合除名処分は無効であるとして、右解雇の無効の確認及び不就労中の賃金の支払を求めた事例。
参照法条 民法1条3項,536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ユニオンショップ協定による解雇と賃金請求権
解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
裁判年月日 1980年2月27日
裁判所名 甲府地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 119 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集31巻1号252頁/労働判例347号53頁
審級関係 控訴審/東京高/昭56. 1.29/昭和55年(ネ)469号
評釈論文
判決理由 〔賃金―賃金請求権の発生―ユニオンショップ協定による解雇と賃金請求権〕
 本件では、被告会社の原告に対する解雇は無効であり、原告は現に被告会社の従業員たる地位にあるものといわなければならない。
 以上のとおりとすると、原告は不就労期間中についても被告会社に対し賃金の支払を求めることができるが、しかし、被告会社は、本件解雇はユニオン・ショップ協定に基づく義務の履行としてこれをなしたもので、被告会社の責に帰すべき事由によるものではないから原告は民法五三六条によって賃金請求権を有しないと抗争するので検討する。
 ところで、民法五三六条にいう「債権者ノ責メニ帰スベキ事由」とは、債権者たる被告会社の故意又は過失、あるいはこれと信義則上同視できる事由をいうものと解せられるところ、確かに、被告会社の原告に対する解雇は、被告会社と被告組合間に締結されたユニオン・ショップ協定に基づく義務の履行としてなされたものであることは被告会社主張のとおりであるけれども、被告会社が原告を解雇せざるをえなくなったユニオン・ショップ協定は、被告会社が、除名が無効である場合に被る解雇権者の責任と不利益を含め、右協定より生ずる利益、不利益の一切を比較考量のうえ、自主的判断に基づいて対組合との関係において締結したものと考えられるので、組合からの除名が不当でそれに基づく解雇が無効である場合の不利益を、その解雇がユニオン・ショップ協定に依拠するとの理由で、右協約の当事者とは別個独立の地位にある原告に負担させることは、事理に反するといわざるをえないし、それにまた、本件解雇は、右ショップ協定に基づく解雇であるとはいいながら、あくまで被告会社が使用者として本来有する解雇権の行使として、自らの判断と権限に基づいてなしたものであって、組合からの除名が直ちに解雇という法律効果を発生させるわけでないことも考慮されなければならない。
 よって、このような諸点を勘案すると、被告会社の原告に対する解雇とそれに基づく就労拒否は、債権者である被告会社の信義則上故意もしくは過失と同視できる事由に基づくものと解するのが相当である。
〔解雇―ユニオンショップ協定と解雇〕
 使用者が労働組合から除名された労働者に対しユニオン・ショップ協定に基づく義務の履行として解雇した場合、その除名が無効のときは他に解雇の合理性を裏付ける特段の事情がない限りその解雇は無効というべきである。