全 情 報

ID番号 00715
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 富士化工機事件
争点
事案概要  組合結成直後に副組合長が前科(窃盗、傷害、住居侵入未遂等各種)を秘匿していたことを理由として解雇されたため、地位保全の仮処分を申請して認容されたため会社が控訴。(控訴認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1961年12月20日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ネ) 510 
裁判結果
出典 労働民例集12巻6号1079頁/時報292号29頁
審級関係
評釈論文 柳川真佐夫・法学セミナー76号74頁
判決理由  提出した履歴書には賞罰なしと記載したこと、被控訴人は、職場の同僚に、いわなくてもよい自己の前科を殊更に口外したこと、控訴会社の社長Aは右の事実を聞知して被控訴人に対し畏怖の念をいだき、同人を解雇する機会をうかがっていたところ、本件解雇に及んだこと、被控訴人には、(1)昭和二二年七月二九日京都地方裁判所宣告、食糧管理法違反、懲役六月罰金三、〇〇〇円、三年間執行猶予、(2)同年一〇月二九日岐阜地方裁判所大垣支部宣告、窃盗、住居侵入未遂、懲役八月、(3)昭和三〇年八月三一日西淀川簡易裁判所宣告、傷害、罰金二、〇〇〇円、(4)昭和三五年一〇月三一日同裁判所宣告、傷害、罰金三、〇〇〇円、(5)同年一二月一九日同裁判所宣告、傷害、罰金五、〇〇〇円に処せられた各前科があること」、と認めることができる。
 被控訴人本人の供述中右認定に反する部分は、前記乙第六号証に比べ措信し難い。
 右事実によると、被控訴人の秘匿して採用されたとする前科は前記(1)ないし(3)であって、(1)及び(2)の刑の執行後かなりの年数がたっているとはいえ、(2)の犯罪は、当時の社会状勢を斟酌するとしても破廉恥罪であることには変りはなく、これらを履歴書に記載しなかったことは、詐術として必ずしも軽微なものであるということはできない。そして、被控訴人が会社内で口外した前科の罪名は明らかでないが、会社側及び他の従業員が前科のあること自体によって或る程度の畏怖心をいだくことは、無理からぬことであり、しかも、被控訴人が本件解雇後も(4)(5)の犯罪を犯している事跡にかんがみるときは、同人が粗暴な性格の持主であることには間違いなく、そのような性質が職場内における行動に反映していたことも想像するに難くない。
 被控訴人に右の如き事情が存する以上、控訴会社の同人に対する信頼関係が失われたとしても、あながちこれを責めることができず、また、他の従業員の作業能率にも悪影響を及ぼす危険があることは明らかであって、このこと自体すでに解雇の理由に価するといわねばならない。