全 情 報

ID番号 00751
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三元貿易事件
争点
事案概要  中国との貿易を主たる業務とする友交商社の従業員が、日中友好貿易の破綻を目的とする行為等を理由に解雇されたのに対し、右解雇は思想、信条を真の理由としており憲法一四条、労働基準法三条に違反し無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件。(申請認容)
参照法条 労働基準法3条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1970年1月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 2373 
裁判結果
出典 労働民例集21巻1号127頁/タイムズ248号196頁
審級関係
評釈論文 花見忠・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕36頁/萩沢清彦・昭45重判解説173頁/平野毅・月刊労働問題148号108頁
判決理由  労働基準法三条が適用される労使の関係においても、企業の存続、発展という要請と労働基準法が志向する個別的労働関係における労働者保護の理念とが調和する合理的範囲内で労働者の信条の自由の保障が制限される場合があることは肯定しなければならない。しからば、右にいう合理的範囲とは、何を基準として判断されるべきものであろうか。抽象的にいえば、右基準は、労働者の有する信条の表現ないしは信条に基く行為が企業の運営を著るしく阻害することであるとするのが相当である。そしてその具体的な適用に当っては、労働者の信条の内容、企業の目的が右信条と矛盾する特殊性、労働者の企業内における地位、信条の表現方法、表現時期、場所等諸般の事情を考量した上、労働者の信条の表現が企業の運営を著るしく阻害する場合に、企業としては当該労働者を排除する等差別的取扱をすることが合法化されると考えるべきである。
 (中 略)
 そこで本件についてみるに、前記のとおり、会社は友好商社であり、その業務を遂行するためには、政治、貿易三原則、政経不可分の原則のほかに、議定書、共同声明の趣旨にも従うことが必要とされていたのであって、この点において通常の企業には見られない特殊性を有する。しかしながら会社は、あくまで貿易を業務とする株式会社であって、同一の信仰の対象と教義を持ちそれに基いて礼拝祈祷の儀式を行ない布教を行なって共同の信仰生活をすることを目的とする純粋の宗教団体とは著るしくその存在目的、意義を異にしているといわざるを得ない。
 (中 略)
 そうすると、会社の右特殊性とは、あくまでも対中国との関係において意味を有するものであって、その従業員が議定書、共同声明の趣旨に反対したため、会社が中国との友好貿易を遂行するうえで妨げとなるという事態が発生したときに、初めて、そのことを理由として当該従業員を解雇することができるかどうかが問題となるのであって、そのような従業員が存在すること自体では未だ従業員の処遇を問題にすることはできないものというべきである。
 (中 略)
 申請人らが会社の従業員として止まることが、会社の業務を遂行するうえに妨げとなることをうかがわせる事実の疎明はない。
 (中 略)
 以上のとおり、被申請人の主張する解雇理由はいずれも理由がなく、結局、本件各解雇はいずれも正当な理由なくしてなされたもので、解雇権の濫用として無効であるというべきである。