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ID番号 00835
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 フォード自動車事件
争点
事案概要  人事本部長として被告会社に中途採用された原告が業務の履行又は能率が極めて悪い等の理由で解雇されたため、人事本部長としての地位確認と賃金支払を求めた事例。(棄却)
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1982年2月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 2593 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集33巻1号175頁/時報1043号129頁/タイムズ474号196頁/労働判例382号25頁/労経速報1131号17頁
審級関係 控訴審/00317/東京高/昭59. 3.30/昭和57年(ネ)615号
評釈論文 野田進・昭和57年度重要判例解説〔ジュリスト792号〕206頁
判決理由  〔解雇―解雇事由―職務能力・技量〕
 原告は、本訴においては、請求の趣旨記載のとおり、単に雇用契約関係存在の確認を求めるのではなく、被告会社の人事本部長としての地位を有することの確認を求めていることからすると、その前提として本件契約は人事本部長という地位を特定した契約であることを自ら認めているものと解することができるばかりでなく、原告は、被告会社の一般の従業員として入社した後昇進して人事本部長になったのではなく、人事本部長として中途採用されたものであることは当事者間に争いがなく、《証拠略》を総合すれば、被告会社は原告の前任者であったAの後任として、日本人の人事本部長の適任者を捜していたこと、B(以下「C」という。)は、昭和五一年四月、被告会社に対し、人事本部長の候補者として原告の履歴書を送付してきたこと、原告は被告会社に採用される前は外資系(米国)の会社であるD会社に約一六年間在籍し、その間同社の労務課長、人事部長、人事担当マネジャー、副社長補佐、社長補佐、GBG人事担当マネジャー等ほぼ一貫して人事の仕事をしてきたものであること、被告会社としては、原告を人事本部長として採用するにあたり、原告が米国で教育を受けたという学歴及び右職歴に注目したこと、そして、被告会社は、同年九月六日付で原告に対し、月額報酬七五万三七〇〇円、試用期間経過後は同社から自動車を貸与する等の待遇で人事本部長として被告会社に入社するように申し出したこと、原告は右申し出を受けて被告会社に対し、同月一三日付書簡で、同社申し出の条件で受諾する旨通知したこと、原告がD会社を辞めて被告会社に入社した理由の一つは、仕事が人事の仕事で、しかも人事本部長という地位で採用されることにあったこと、もし提供される職位が人事本部長ではなく一般の人事課員であったならば、原告は被告会社に入社する意思はなかったこと、被告会社としても原告を人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかったこと等が認められ、以上の事実を総合すれば、本件契約は、人事本部長という地位を特定した雇用契約であると解するのが相当である。
 (中 略)
 人事本部長という職務上の地位を特定した雇用契約であって、原告に特段の能力の存在を期待して中途採用したという本件契約の特殊性に鑑み、前記(一)の原告の執務状況を検討すると、特に(イ)機会あるごとに、自己に課せられた仕事を部下に委譲する形ではなく、自ら仕事を担当する(ディレクターという形ではなく、被告会社のいうワーキング・マネジャーとして)という方法で執務することを期待されていたにもかかわらず、執務開始後約六か月になってもそれが改善されなかったこと、(ロ)ジョブ・オーディットの目的の一つが、人員整理の際の余剰人員を見つけることにあることを認識しながら、人員整理の完了した後である昭和五二年四月二〇日までに、五五の職のうち五人に面接したのみで、原告に要求されていた職務を著しく怠っていたこと、とりわけ、同年三月にE社長に対し同月末日までに面接を完了する予定であると報告しながら、全くそれを行わなかったこと(ハ)被告会社の執務方法に習熟する機会を与えられながら、かつ、被告会社においては社長の決裁だけでなくファスパックの承認が必要である事項が留保されていることを認識し、さらに、部下の助言を無視して規則違反を行った等の原告の執務態度は、被告会社の期待した人事本部長としては規則(ト)にいう「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」に該当し、ひいては、規則(リ)にいう「雇用を終結しなければならないやむを得ない業務上の事情がある場合」にも該当する、と解するのが相当である。
 (中 略)
 本件契約が前記二2において認定のとおり人事本部長という地位を特定した雇用契約であるところからすると、被告会社としては原告を他の職種及び人事の分野においても人事本部長より下位の職位に配置換えをしなければならないものではなく、また、業務の履行又は能率が極めて悪いといえるか否かの判断も、およそ「一般の従業員として」業務の履行又は能率が極めて悪いか否かまでを判断するものではなく、人事本部長という地位に要求された業務の履行又は能率がどうかという基準で規則(ト)に該当するか否かを検討すれば足りるものというべきである。