全 情 報

ID番号 00850
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 青空交通事件
争点
事案概要  会社内でかねてから会社買収のうわさがあったため商業登記簿を調べたところ、役員交代等の事実を知り、右登記簿の謄本のコピーを他の従業員に配布し説明した組合書記長が、解雇されたのに対し、右解雇は解雇権の濫用に当り無効である等として地位保全等求めた仮処分申請の事例。(申請一部認容)
参照法条 民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1984年8月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和59年 (ヨ) 67 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1210号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由  六七条六号については、申請人は業務上知り得た被申請人の秘密を洩らしたのではなく、単に公表されている商業登記簿記載の事実及びそれから自己が推測した事実を述べたにすぎないのであるから、「業務上重大な秘密を洩らしたとき」に当たらない。また、申請人が説明を行う際、被申請人の信用を失墜させることについて故意が存したことを一応認めるに足りる疎明資料は存せず、前記のとおり、申請人の説明行為と因果関係のある被申請人の業界・取引先におけるうわさは軽微であって、そのうわさも短期間で消失したのであるから、未だ申請人の説明行為によって被申請人の信用が失墜したとは言えず、「故意に会社の信用を失墜する行為があったとき」にも当たらない。
 三九条三号については、前記2認定の事実では未だ「企業の存立が危くなった」とも、被申請人の旅客運送事業の遂行が阻害されて「その社会的使命の遂行が阻害された」とも言えないし、申請人に右故意が存したこと一応認め得る疎明資料も存しないので、右を「せしめようとすると認められるもの」にも該当しない。
 三九条六号については、同条一号ないし五号に照らせば、被申請人側の事情として従業員を解雇しなければならないほどの正当な事由が存するか、又は当該従業員側の事情として当該従業員を解雇しなければならないほどの何らかの就業に適さない事由が存するか、職場秩序維持の妨げとなる行為をなした場合に同号の「已むを得ない事由のあるとき」に当たると解されるところ、被申請人は申請人を解雇しなければならない被申請人側の事由や申請人が就業に適さない事由を主張していない。
 そこで、申請人の説明行為が解雇しなければならないほどの職場秩序維持の妨げとなる行為か否か検討してみるに、申請人の説明行為は被申請人の商業登記簿記載の事実及びそれから自己が推測した事実を述べたにすぎず、その推測した事実を述べたことも、被申請人会社内において従前会社買収のうわさが流れていたこと、被申請人及びその子会社A社株式会社の役員交代等の事実が従業員に知らされていなかったこと、被申請人及び右子会社の新取締役となったBがC社の関係者であること、並びに被申請人の申請人らの組合に対する前記一3記載の行為に照らして無理なからぬことと言えるし、申請人の説明行為によって被申請人に生じた影響は軽微なもので結局ほとんど実質的損害及び信用低下は生じなかったのであるから、申請人の説明行為は申請人を解雇しなければならないほどの職場秩序維持の妨げとなる行為に該当しない。
 以上によれば、申請人の説明行為は被申請人の主張する就業規則所定の解雇事由に該当しないので、本件予告解雇は無効であり、申請人は依然として被申請人に対して従業員たる地位を有するとともに賃金請求権を有する。