全 情 報

ID番号 00869
事件名 金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 猪井運輸事件
争点
事案概要  車の側面、荷台等への会社に抗議、非難する看板の取付等を理由として、一切の車両の運行を停止され、給与が基本給のみとなって激減した組合員らが、その減収分の支払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部却下)
参照法条 民法536条2項
労働基準法26条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
裁判年月日 1975年9月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和50年 (ヨ) 1327 
昭和50年 (ヨ) 1374 
昭和50年 (ヨ) 2237 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例235号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―争議行為・組合活動と賃金請求権〕
 以上のような事実であって、右認定のような事実関係からすれば、被申請人会社が昭和五〇年四月四日以降車輛の運行を停止するにいたったのは、要するに右の(2)に認定したような事情からであり、他に理由はないというべきであるから、右運行の停止が被申請人会社の責に帰すべき事由によるものと認められるかどうかは、組合側による右認定のごときビラ・看板の貼付行為を理由に車輛の運行を停止することが法的にみて正当と判断されるかどうかにかかっているものといわなければならない。しかるところ、組合の情報宣伝活動は組合活動のうちで重要な部分を占めるものであるが、組合掲示板以外の会社の施設にビラや看板を貼付するような方法で情報宣伝活動をする場合、つねにこれを正当とすることはできないのであって、これが正当か否かについては、ビラ・看板等を貼付する施設の機能、貼付の方法・回数、ビラ・看板等の内容、貼付された状況などから総合的に判断するよりほかはないというべきところ、いまこれを本件についてみるに、四月四日の時点で組合側が取りつけた看板の場所と枚数、取付の方法、看板の記載内容と大きさ等はいずれも前記(2)に認定のとおりであって、これらの点を総合的に考察するならば、右程度の看板の取付行為が組合の正当な情報宣伝活動の範囲を逸脱した違法なものとは認めがたいといわざるをえないのである。そうだとすると、右看板の取付行為のみを理由としてなされた被申請人会社の本件運行の停止は、組合の正当な情報宣伝活動の範囲を逸脱したものとは認めがたい行為を理由とするものであり、その意味において被申請人会社の責に帰すべき事由による受領遅滞に当るものと評価しなければならないのであって、その結果労務の提供が不能となった申請人および選定者らとしては、前説示のとおり、その反対給付たる賃金請求権を失わないものといわなければならないのである。
 〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 しかして、債権者の責に帰すべき事由による履行不能の場合に債務者が失わないとされる反対給付とは、その履行がなされておれば給付されたであろう対価を指すものというべきであって、これを本件の場合に即していうならば、被申請人会社による車輛の運行が正常に行なわれていたならば、申請人および選定者らに支給されていたであろう一切の給付がこれに当り、それが被申請人会社の賃金体系上基本給に該当するか、それとも、それ以外の基準外手当に該当するかは問うところではないと解するのが相当であるから、右賃金の額は、他に特段の事情の認められない本件の場合、四月四日以前三ケ月分(その具体的金額は別表(1)・(2)のとおり。ただし、選定者A、同Bの分を除く。)の平均収入から四月分ないし六月分として現実に支給された給与の額(その具体的金額は別表(1)ないし(3)のとおり。ただし、前同様)を控除した額(別紙債権目録(一)ないし(三)の四ないし六月分の欄に記載した金額がこれに当る。
 (中 略)
 債権者の責に帰すべき事由による履行不能の場合における反対給付請求権は、事柄の実質において債権者の責に帰すべき受領遅滞に基づく損害賠償請求権と共通するものがあるから、右反対給付請求権についても民法四一八条の過失相殺の法理の類推適用があるものと解すべきところ、被申請人会社による車輛の運行停止に対し組合側が様々の抗議行動をとったことは前記(3)に認定のとおりであるが、その方法および態様からみて、抗議行動としてそこに行過ぎがあったことを否定することはできないのであり、そのために労使間の紛争がさらに激化し、ひいて運行停止の期間が著しく長期化する結果となったことは前記のとおりであるから、本件運行停止による申請人および選定者らの減収(損害)の拡大・増加については、申請人および選定者らの側にも過失があったものといわざるをえず、その過失は右減収の額を算定するについてもこれを斟酌すべきものといわなければならない。ただ、その斟酌の限度については、労基法二六条の趣旨から考えても減収(損害)額の四割以上であってはならないと解すべきものであり、本件の場合は、前認定の諸事情を考慮すれば、前記各減収額の六割に相当する金額が申請人らに支払わるべき賃金の額であると認定するのが相当である。