全 情 報

ID番号 00870
事件名 賃金支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 福田運送事件
争点
事案概要  労災補償等についての要求実現を目的とするストライキを解除した後、会社が配車を命じず賃金を支払わないので、コンテナ運転手らが、賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部却下)
参照法条 労働基準法2章,11条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1976年9月3日
裁判所名 神戸地
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ヨ) 402 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例265号83頁
審級関係
評釈論文
判決理由  以上の事実によると、債権者らが、昭和五一年六月一八日以降出勤し、債務者の労務に服すべき態度を取っていることは一応認められる。債務者が、債権者らに労務の提供をする意思がないというのであれば、個別的に配車を命じたが拒否されたことや、その都度個々の意思を明確に確認したことが必要であるが、これを認めうる疎明資料がない。ただ債務者にとって、従来の争議行為における状況から、誠実な労務を期待できない不安があることは窺えるが、もともとスト中の分会員は債務者の労務に服さないのであるから、これを期待できるものでなく、また前記スト中の分会員の行動中に冷凍えびコンテナ車の取りこみという違法の疑いのあるものがあるが、争議行為は業務の阻害がなされるものであり、この一事をもって誠実な労務提供が期待しえないということができない。また分会員が、運送の確実性について「分からない」と答えていることで誠実性がないときめつけることも疑問であり、さらにその態度が前記争議行為とからんで実質上怠業であるとの判断も、具体的に怠業といえるものが明らかでない。
 債務者がいうところは、その業務の特殊性、特に下請運送として脆弱な企業基盤しかないところから、これを考慮せず行われた分会の争議行為による打撃が大きく、ひいては債権者らに対する個人的な信頼もなくなり、もはや誠実な労務提供を期待できないとするものである。法的には債務者が、労使間の紛争と個々の労務関係とを区別して、対応しない結果によるものと評価されてもやむをえないと考えられる。従って債権者らが、昭和五一年六月一八日以降も労務提供のため出勤し、別にストを行っていない以上、債務者が業務を命じないのはその受領を遅滞しているものといわざるをえないから、出勤した債権者らについて賃金請求権があるものといわねばならない。