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ID番号 00873
事件名 賃金支払請求事件
いわゆる事件名 沖縄米軍基地事件
争点
事案概要  ハチマキを着用して就労しようとして、米軍側の就労拒否により就労できず、或は就労拒否にもかかわらずハチマキ着用のうえ就労し、賃金カットされた沖縄米軍基地の従業員が、国に対してカット分の賃金の支払を求めた事例。(一審 請求棄却、二審 控訴棄却、請求棄却)
参照法条 労働基準法2章,3章
民法415条,536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権
裁判年月日 1978年4月13日
裁判所名 福岡高那覇支
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 32 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集29巻2号253頁/時報909号99頁/労働判例297号18頁/労経速報986号22頁/訟務月報24巻4号842頁
審級関係 一審/00246/那覇地/昭51. 4.21/昭和49年(ワ)206号
評釈論文 盛誠吾・日本労働法学会誌54号111頁/柳沢旭・法政研究45巻3・4合併号182頁
判決理由  (一)本件ハチマキ着用のうえでの就労の申入が、債務の本旨に従った労務の提供といえるか否かについて判断する。
 労働者は、勤務時間中、労働契約に従って職務に専念すべき義務、すなわち、職務上の注意力をすべてその職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務を有している。従って勤務時間中に、職務の遂行と関係のない行為を行なうことは、原則として、右義務に違反するものと解されるから、勤務時間中に斯る行為をすることは、債務の本旨に従った履行とはいえない。そして右義務違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。
 職務の遂行中に行なわれた行為が、組合活動であっても、一般的には同様に解すべきである。組合活動も、本来勤務時間外において行なうべきであり、使用者側の許容のない限り、勤務時間内における組合活動は、原則として許されない。
 そこで本件ハチマキ闘争について考える。
 ハチマキ闘争の目的は、組合員相互の連帯意識の昂揚と団結の強化をはかり、使用者に対しては団結を誇示し、心理的圧迫を加えて要求行為の実現をはかり、他方外部に訴えて大衆の支待を要請することにあると思料されるが、勤務時間中、使用者に対する要求等を記載したハチマキを着用すると、その間絶えず組合員相互の連帯と使用者ないしは管理者に対する闘争感情の共有を確認し合うこととなって職務の遂行に対する熱意と緊張感を減殺することになる。また使用者側よりみると、ハチマキ闘争中の労働者が、組合活動の方へ注意を向け、しかも管理者に対して直接の対立感情を示していると受けとめるところから、職務遂行のための指揮、命令権の円滑な行使を妨げられるおそれが強くなる。更にハチマキ着用は、余りにも刺激的であって、第三者に対して異様な感じを与えるばかりか、これら第三者の眼には、使用者が勤務時間中に、職務遂行と両立し難い労働者の行為を許容しているのではないかと映って、職場秩序の乱れをも推測させる結果を生むおそれが多いといわざるを得ない。
 従ってハチマキ着用のうえでの就労は、労働者の職務専念義務に違反し、ひいては職場秩序を乱すものであるから、債務の本旨に従った履行とは認められず、本件の場合の如く、ハチマキ着用のうえでしか労働しないという就労の申入れは債務の本旨に従った労務の提供とはいえない。
 (二)右(一)において述べたとおり、本件当日における控訴人らの就労の申入は、債務の本旨に従ったものとはいえない。しかし労働契約の場合に、債務の本旨に従った労務の提供でないということから、直ちに使用者側において就労を拒否することを正当化するものではなく、就労拒否が正当であるか否かは、瑕疵の内容、それが職務の遂行に及ぼす影響の程度、範囲、双方の受ける利害得失等の諸事情を具体的に検討して判断すべきである。
 (中 略)
 2 本件当日もハチマキを取りはずして就労するように命じているところ、右措置も地位協定に基づく管理権によりなされたものと解されるが、右に述べたハチマキ闘争の性格、基地内において行なわれたこと等に照らし、合理的な権限の範囲内に止まっているものと考えられる。
 従って右命令が無視され、それを黙認しなければならないとすると、基地内における在日米軍の規律保待と秩序の維待は困難になるものと認めざるを得ない。
 他方控訴人ら組合側においては、勤務時間中にハチマキ闘争をしなければ、組合員の団結が確保されないということはできないから、控訴人らのハチマキ闘争を在日米軍側で受忍しなければならないとすると均衡を失するものといわざるを得ない。
 (中 略)
 三 控訴人らのうち、Aら一七〇名はハチマキ着用のうえ就労し、その余は、在日米軍側の就労拒否によって労働することができなかった。
 就労しなかった控訴人らは、当該時間内における労働はできなくなり、結局履行不能に帰したことになる。右(二)で述べたとおり、在日米軍の控訴人らに対する就労拒否は、正当なものであるから、債権者側の責に帰すべき事由による履行不能には該当しない。従って右控訴人らは、被控訴人に対し、本件当日、就労しなかった分の賃金の支払を求めることはできない。