全 情 報

ID番号 00908
事件名 労働契約関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 大栄交通事件
争点
事案概要  タクシー乗務員らが、定年後再雇用の慣行があるにも拘らず組合役員らの再雇用を拒否していること、精勤手当等の支給につき年休を欠勤扱としたこと、対立組合組合員との間で差別的取扱をしたこと等を主張して、地位確認、賃金支払、慰謝料支払等を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法2章,26条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
年休(民事) / 年休取得と不利益取扱い
裁判年月日 1974年3月29日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 1849 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例200号40頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・ジュリスト591号127頁
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 右各原告がそれぞれ他会社で稼働して受領した賃金は、Aの就業拒否により給付を免れた労働力を他に転用して得た収入であって、本件就労拒否がなくとも当然に取得しえたものというべき特段の事情の存在の認められない本件にあっては、民法五三六条二項但書に基づき、これを右原告らの有する賃金請求権から控除して使用者に償還すべきであるが、その控除の限度は労働基準法二六条の趣旨に照し、平均賃金の四割を超えることができないものと解する。
 〔年休―年休取得と不利益取扱い〕
 そもそも労働基準法三九条の有給休暇制度の趣旨は、労働者の労働による肉体的、精神的疲労を回復し、労働力の維持培養を図ると同時に、労働者に対して人たるに値する生活を得させようとするものであって、その実効を挙げるためにこれを有給としたものと解され、同条四項において、平均賃金又は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払わなければならないとしているのは、有給とすることの具体的内容として、その期間に労働した場合に得られるであろうはずの賃金を保障するものと解するのが相当であり、これによってはじめて労働者が有給休暇を十分に利用しうるものとなるのである。
 4 とすれば、Aの行なった本件有給休暇についての賃金支給の中、有給休暇手当として、過去三か月間の平均賃金を支払った点は、家族手当、交通費を除外したことを除いて、前記法条にかなったものといえるが、その月の精勤手当、無事故手当、交通費の支給について、有給休暇日を全くの欠勤と同様に処理した点は、結局そのために前述のとおり、有給休暇をとることにより、その期間労働した場合と比して、その賃金額に大きな差が生じる結果をもたらしているものであって、従って、有給休暇の期間についてだけみれば、形式的には平均賃金を支給してはいるものの、その月を単位としてみるときは、実質的には前記法条が支払いを必要としているだけの賃金を支給していないといわざるをえず、前記有給休暇制度の保障の趣旨にもとり、労働基準法三九条四項に違反するものと考える。
 又、家族手当および交通費は、平均賃金算定においては、深夜労働等の割増賃金の場合と違って、これを除外すべきではないから、これを除外して平均賃金を算定したことは違法であり、被告には各原告がそれぞれ有給休暇をとった月の前三か月間における家族手当と交通費の平均額に基づいて、有給休暇日数分に相応する割合の金員を支払うべき義務があり、その金額は(証拠略)によって計算すると別紙F表(略)の記載のとおりである。
 (中 略)
 有給休暇をとった月の精勤手当、無事故手当、家族手当、交通費については、右のように平均賃金の中にすでにそれらの有給休暇日の分が含まれていることとの関係から、有給休暇により就労しなかった乗務数に応じた割合の額を控除するにとどめるべきものであると解する。