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ID番号 00932
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 陸軍綜合補給廠事件
争点
事案概要  駐留軍労働組合支部の争議に際し駐留軍側が労務者の就労を拒否し賃金のカットを行なったのに対し労働者が賃金を請求した事例。(労働者側勝訴)
参照法条 民法536条2項
労働基準法26条
体系項目 賃金(民事) / 休業手当 / 労基法26条と民法536条2項の関係
裁判年月日 1961年1月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ネ) 111 
裁判結果 棄却
出典 高裁民集14巻2号99頁/労働民例集12巻1号24頁/時報260号28頁/東高民時報12巻1号8頁/法曹新聞160号6頁/訟務月報7巻8号1581頁
審級関係
評釈論文 岸井貞男・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕204頁/本田尊正・法学新報68巻9号69頁
判決理由  駐留軍労務者給与規程中の控訴人主張の条項は、労働基準法第二十六条と趣旨を同じくするように立案当時民法の規定についても考慮せられたけれども、特にその第五百三十六条の規定の適用を排除しようとするような特段の配慮はなかったことが認められるので、右給与規程の条項は控訴人主張のような特別の意味を有するものではなく、労働基準法第二十六条とその趣旨を同じくするものであることは明らかである。そうして右労働基準法第二十六条の規定する「使用者の責に帰すべき事由」はこれを民法第五百三十六条第二項にいう「債権者の責に帰すべき事由」と区別しなければならない根拠を見出し難く、労働基準法の右規定は、単に労働者の生活擁護のため民法第五百三十六条第二項所定事由中「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合につき平均賃金の百分の六十の限度で罰則及び附加金の制裁を以て支払を使用者に強制する趣旨のものと解すべく、民法第五百三十六条第二項の規定の適用を全面的に排除することにより労働者に対する使用者の責任を軽減しようとしたものとは解することができない。すなわち使用者の責に帰すべき事由による就労不能の場合には、労働者は労働基準法第二十六条所定の百分の六十の限度に制限されることなく、賃金全額の請求権を失わないものというべきである。
 (中 略)
 既存の労働契約関係はそれが適法に変更されるまでは争議中も依然存続しているのであるから、使用者が争議手段としてロックアウトに訴え労働者が債務の本旨に従う労務の提供をしたにかかわらずこれを受領しないときは、それは使用者側における受領遅滞となり、そのための就労不能は使用者を賃金支払義務から免かれさせることができない。ただ個々の場合について観察するとき、使用者の労務受領拒否が使用者の責に帰することのできない事由によるのと認められる場合に限り、使用者は受領遅滞の責を負わず、延いて使用者は民法第五百三十六条第一項の規定により賃金債務についても免責されることとなるに過ぎない。たとえばロックアウトが使用者の緊急行為と目し得る場合の如きはこれに属すべく、これに反し、いわゆる先制的攻撃的ロックアウトは多くの場合使用者の責に帰すべき事由に当るものとして免責の効果を生じないものと解すべきである。