全 情 報

ID番号 00945
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 ホーム企画センター事件
争点
事案概要  固定給と不動産売買高についての歩合給で給与を支払われていた不動産販売員が、退職後、在職中に成立させた契約についての歩合給を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法11条,24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1976年2月12日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 623 
裁判結果 一部認容 一部棄却(確定)
出典 労働民例集27巻1号89頁/時報815号33頁/タイムズ340号269頁/タイムズ351号347頁
審級関係
評釈論文 西村健一郎・判例評論214号36頁
判決理由  〔賃金―賃金の範囲〕
 歩合給といえども、その実質に鑑み、労働基準法上の賃金に該当するものというべきであり、しかも、それがいわゆる基本給の額との関係において賃金全体に対して影響を有するものと認められる場合には、雇傭契約関係終了の理由如何にかかわらず、その時点において、本来これを調整する余地を残すものとみられるところであるから、かかる給与の構成下にある社員が、売買契約を締結させた後その入金前に退職した場合にあっても、それを基礎として、後、他の社員により登記の完了、代金の入金を了するに至ったような場合には、特段の事情のない限り、退職社員によってなされた顧客の発見、交渉、現地案内、契約締結等のすでになされた労務の提供という事実を、労働の対償としての賃金額に反映、評価するのが公平であり、従って提供された労務が、その契約についての入金完了までに要する全労務に対する割合等に応じて、歩合給を請求することができるものと解するのが相当である。
 (三)以上の観点からすれば、原告の基本給が一か月金四万円であって《証拠略》によれば歩合給への依存率が基本給をはるかに上まわることが認められるところであり、かつ、後に被告会社社員Aが、原告の契約について入金完了に至らしめていることは前示のとおりであるから、原告は、その退職にともない歩合給を請求し得るところであって、前示認定事実によれば、原告の提供労務の割合等は、Bを買主とする売買契約については八割すなわち金七万〇、二〇〇円(2,925,000円×0.03×0.8)、Cを買主とする売買契約については九割すなわち金七万三、五〇七円(2,722,500円×0.03×0.9 円未満切捨)、Dを買主とする売買契約について八割すなわち金一七万六、二九九円(7,345,800円×0.03×0.8円 未満切捨)、と認めるのが相当であり、他に特段の事情が認められない本件では、原告は、被告に対し、右合計金三二万〇、〇〇六円を請求し得ることとなる。
 〔賃金―賃金の支払い原則―全額払〕
 前記のように、原告の有する前記歩合給債権が「賃金」債権に該当すると解されるところ、労働者の賃金債権に対しては、使用者は労働者に対して有する債権(不法行為に基づく損害賠償債権も含む)をもって相殺することは同法第二四条第一項の趣旨から許されないと解するのが相当であるから、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし賃金債権を受働債権とする相殺の主張は主張自体失当であるといわなければならない。