全 情 報

ID番号 00979
事件名 賃金請求、不当利得返還請求反訴事件
いわゆる事件名 北海道教職員事件
争点
事案概要  校長の承認なく教研集会に出席するため欠勤した公立学校の教職員が、欠勤の三ケ月後の給与から欠勤日に対応する給与を控除されたのに対し、右控除は地方公務員法二五条二項に反し無効であるとして控除された給与の支払を求め、他方被告側から過払分の返還を求める反訴がなされた事例。(いずれも認容)
参照法条 地方公務員法25条2項
労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1971年5月10日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (行ウ) 5 
昭和46年 (行ウ) 3 
裁判結果 認容(控訴)
出典 行裁例集22巻5号647頁/時報651号105頁
審級関係 控訴審/03383/札幌高/昭52. 2.10/昭和46年(行コ)3号
評釈論文 菊地洋男・教育委員会月報251号69頁/兼子仁・教育判例百選212頁/小出達夫・季刊教育法2号122頁/藤谷正博・自治研究49巻1号139頁
判決理由  原告は地方公務員であり、したがって原告の給与の支給については地方公務員法二五条二項が適用されるところ(中 略)。
 地方公共団体において自己の有する反対債権に基づき恣意的に相殺を主張して給与から控除することは、同項に規定する全額払の原則に反するもので原則として許されないところである。
 しかしながら、給与支給事務の処理に当り、計算手続における過誤、違算があったとか、あるいは減額事由が支払期日に接着して生じたりもしくは支払期日後に生じたような場合など、事実上過払を生ずることは避けがたいところであり、そのような場合にこれを清算するためその後に支払時期が到来する給与から控除して調整をすることは、形式的には一般の相殺と異ならないけれども、その実質をみれば適正な給与額を支払うための技術的な調整にすぎず、結果においては本来支払われるべき給与を正当に支払ったことになるのであるから、給与と全く無関係な債権による相殺の場合と同一視することはできない。しかしながら、前記地方公務員法二五条二項の趣旨からすれば、そのような相殺は賃金支給事務上の便宜から清算調整の手段として例外的に許されるものにすぎないと考えられるので、過払のあった時期からみて給与の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされることが必要であり、しかもその金額は多額にわたることなく、その方法においてもあらかじめ相手方に予告するなど勤労者の生活の安定をおびやかすおそれのない場合に限って許されるものと解すべきである。
 ところで本件についてこれをみるに、まず原告が勤務場所を離脱したのは昭和四三年一一月上旬であり、これに対し被告が相殺をしたのは翌四四年二月分の給与に至ってである。そして、《証拠略》を綜合すれば、白老町教育委員会教育長は昭和四三年一一月下旬白老小学校長から本件の問題について報告を受けながら、懲戒処分者を出すことを避け事態を穏便に処理したいと考えるのみで時日を経過し、(中 略)。
 昭和四一年一〇月三日付北海道教育委員会教育長通達2によれば、当月分(昭和四三年一一月分)の給与の減額に関し翌月の一〇日までに北海道教育庁胆振教育局長に報告しなければならないのにこれをせず、昭和四四年一月二〇日に至ってはじめて原告と交渉をもったものであり、原告に対する説得もそれが一度限りであったこと、その後同月二七日右胆振教育局長に対し給与減額報告書を提出したことが認められ、他に右認定に反する証拠は存しない。また本件は、多数人が一度に勤務場所を離脱した場合のように各人についての事実関係の調査を必要とする事案とは異なり、その対象は原告一人であって事実関係も比較的明らかであり、その事実の調査に時日を要した形跡はないし、原告本人尋問の結果によれば、給与から減額をするについて原告に対し減額を予告するといった措置は何らとられておらず、昭和四四年二月分の給与から一方的に控除したものと認められる。
 右のような諸事情を考慮すると、被告のした本件相殺は、先にのべた地方公務員法二五条二項の例外的措置として許容される場合に該当するということはできない。