全 情 報

ID番号 00988
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 中華料理店「若水」事件
争点
事案概要  中華料理店で雇われて出前業務に従事していた者が、未払賃金等があるとして、元の使用者に対してその支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
民法505条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1981年3月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 269 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集32巻2号131頁
審級関係
評釈論文
判決理由  原告が被告の顧客から集金した金員のうち金一八五〇円を無くしたことについては、他に特段の主張立証のない本件においては、少なくとも原告に過失があるものと推認すべきであるから、原告には、被告に対し、右金一八五〇円について、債務不履行ないし不法行為による損害賠償責任があったというべきところ、労働基準法二四条一項本文は、いわゆる賃金の全額払の原則を定めており、賃金の一部控除を禁止しているから、特段の事情のない限り、使用者が、労働者に対して有している反対債権をもって、労働者の賃金債権を一方的に相殺して決済することは許されないと解すべきである(最高裁判所昭和三一年一一月二日判決・民集一〇巻一一号一四一三頁、同昭和三六年五月三一日判決・民集一五巻五号一四八二頁参照)。しかしながら、賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものであるから、賃金債権と使用者が労働者に対して有する債権とを、労使間の合意によって相殺することは、それが労働者の完全な自由意思によるものであり、かつ、そう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、全額払の原則によって禁止されるものではなく有効と解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和四八年一月一九日判決・民集二七巻一号二七頁、東京地方裁判所昭和四七年一月二七日判決・労働判例一四四号一〇頁参照)、本件においては、前記のとおり、被告は、原告の同意を得て、原告の賃金債権と集金の未納による賠償債務とを相殺(差引計算)したものであるところ、さきに認定したところから明らかなとおり、右相殺に供された金一八五〇円は、原告において即座に弁済すべき性質のものであること、その額も合計金一八五〇円であって原告の給料額に比し、極めて少額であり、原告の経済生活をおびやかすおそれは全くないことや、証人Aの証言などを考え併せると、原告の右相殺に対する同意(相殺することの意思表示)は、完全な自由意思によるものと認められ、かつそう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたものと認めるのが相当であるから、右相殺は有効というべきであり、原告には、右相殺された金一八五〇円の賃金の支払請求権もないというべきである。