全 情 報

ID番号 01024
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ノースウエスト航空事件
争点
事案概要  アメリカ本社におけるパイロット組合のストライキにより飛行機が全面停止し、日本支社での業務がなくなったために、従業員に休業を命じた外国航空会社に対して、休業期間中の賃金の支払が求められた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法26条
民法413条,536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 一部スト・部分ストと賃金請求権
裁判年月日 1978年8月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 7474 
昭和47年 (ワ) 8618 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集29巻4号578頁/時報905号115頁/タイムズ382号113頁/労働判例304号31頁/労経速報991号9頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・判例評論243号40頁/木村五郎・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕216頁
判決理由  二 原告らは、被告の受領遅滞により賃金請求権を取得した旨主張するが、雇用契約における受領遅滞も債務者の弁済提供の効果をもたらすのみであって、これにより直接賃金請求権が発生するものとは解されない。
 (中 略)
 三 次に原告らの被告の責に帰すべき事由により労務の給付が不能となったので原告らが賃金請求権を有する旨の主張について検討する。
 1 前記のとおり、原告らは、被告から休業を命ぜられたため右期間労務の給付ができなかったのであるから、履行が不能であったといえる。
 2 そこで被告の帰責事由の有無について検討する。
 (一)民法第五三六条第二項の債権者の責に帰すべき事由とは、故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由をいうものと解せられ、このことは労働契約に関する場合も同様であるといわなければならない。そしてストライキを含む一切の争議行為は、労働者の団体がその意思決定に基き、その目的を達成するために行うものであって、使用者に争議行為を停止する権限はないから、労働者が他の組合又は一部組合員のストライキによって就労できない状態になったとしても、使用者が不当な目的をもって殊更に労働者をしてストライキを行わせるように企図したり、ストライキに至る経過について使用者の態度に非難されるべき点がある等特段の事由がない限りは、使用者の責に帰すべき事由があるとはいえないものと解する。
 (二)そこで本件につき右特段の事由があるか否かを更に検討する。
 (1)原告らは、被告が意図的にパイロット組合をストライキに追い込んだ旨主張し、《証拠略》中には、右主張の一部に副う記載部分があるが、右部分は、《証拠略》に照らし、直ちに信用することができず、《証拠略》によれば、パイロット組合と被告との交渉が長期に及び難航したのは、交渉項目が二〇〇以上の多数にわたり、かつ、双方が容易に自己の主張を譲らなかったことによるものであるといわざるをえない。
 (2)原告らは、被告が相互援助協定に加盟していて、ストライキ期間中かえって利益をあげ得るため、パイロット組合をストライキに追い込もうと企図した旨主張する。
 《証拠略》によれば、被告は、米国の一部航空会社との間においていわゆる相互援助協定を締結しているが、右協定の骨子は、右協定に加盟する航空会社がストライキにより航空便の運行が停止した場合、右会社と競合する路線を有する他社は、ストライキにより増加した収益から増収分の運行経費を控除し、その純収益をストライキのため運行を停止している会社に支払うものとし、右支払額がストライキ開始後二週目までは同社の運行経費の五〇パーセント、三週目はその四五パーセント、四週目はその四〇パーセント、五週目以降はその三五パーセントの額にそれぞれ満たない場合には、右協定に加盟する全社が右基準額に充つるまでその差額を補償するというものであること、被告は、パイロット組合のストライキにより航空便の運行が停止したため、その期間の補償として右協定に加盟する他の航空会社から合計約四四〇〇万ドルの支払を受けたこと、米国においては、右協定のためストライキが多発し、かつ、長期化したとの議論があることが認められる。しかし、《証拠略》によれば、前記協定は、米国民間航空委員会により右のような議論を否定した上で認可され、連邦裁判所によって認可の有効性も認められていること、パイロット組合の本件ストライキによって被告が被った損害額(収入減)は約八六〇〇万ドルであったのに対し、右協定によって支払われた補償額は約四四〇〇万ドルであって損害額を大幅に下廻り、その他右協定に加入している航空会社が一九七二年から一九七四年までの間に行われたストライキの際右協定によって受領した補償額もいずれもストライキによって受けた損害額に充たないことが認められる。従って、前記相互援助協定が存するの故をもって、直ちに被告が意図的にパイロット組合をストライキに追い込んだものということはできない。
 (3)従って、本件においては、前記特段の事由に相当するような事実は認めることができない。
 (中 略)
 (3)以上によれば、被告は、パイロット組合のストライキにより航空便が停止したため、日本支社の業務が減少し従業員全員に就労させることが不可能となったので、従業員の休業の方法順序について組合と協定を結び、各職場の業務量の減少に応じてそれに必要な限度で休業を命じたものであることが認められ、原告らに対する休業命令はその程度、態様、方法等において適正妥当なものといわなければならない。従って休業命令が違法であることを前提とする原告らの主張は採用し得ない。
 3 右のとおり、パイロット組合のストライキの発生が被告の責に帰すべき事由に基くものと認めることができず、しかも、右ストライキに基因して、被告が原告らに不当に休業を命じたことは認められないから、原告らの履行不能が被告の責に帰すべき事由によるものとは認めることができない。