全 情 報

ID番号 01027
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 東都自動車事件
争点
事案概要  一単位教習時間(最初の五分間の導入、五〇分間の実技指導、最後の五分間の講評)において、最後の一五分間にミニストを行った自動車技能指導員に対する賃金カット(単位教習時間六〇分全体の賃金カット)の効力が争われた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法24条1項
民法413条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1978年11月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 4151 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集29巻5・6合併号699頁/時報923号124頁/タイムズ386号131頁/労経速報1001号3頁/労働判例308号65頁
審級関係
評釈論文 下井隆史・労働判例313号16頁/山口浩一郎・ジュリスト730号122頁/盛誠吾・日本労働法学会誌54号111頁/浜田冨士郎・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕218頁
判決理由  2 次に被告は、原告らが所定のとおり導入、実指導及び講評が完了しない限り債務を履行したことにならない旨主張して争うので、この点について判断する。
 (一)道交法九八条所定の指定自動車教習所が行う自動車運転教習につき同法施行規則三三条一項が技能教習等の一教習時限を五〇分と定めていることは前記のとおりであり、同条及び道交法九八条、九九条、同法施行令三五条、同法三四条の各規定から推知しうる右一教習時限設定の趣旨並びに前記教習業務運営指針四〇条の規定を総合して考えると、右規定が一単位教習時間中の実指導(技能教習)五〇分間は、指導員に急病その他やむを得ない事情が存在しない限り、一人の指導員によって結了させることを当然の前提としたものと解することができるし、《証拠略》を総合すれば、被告の右のような理解を前提として、原告ら指導員の早退について一時間を単位としてこれを認め、例えば、原告ら指導員が一時間二〇分にわたる団体交渉に参加した結果、二つの単位教習に当れなかった場合には二時間分の賃金カットをしているなど賃金は原則として時間単位で計算しているが、例外として、あらかじめ届出のあった遅刻については、例えばB勤務に振替えるなどの方法をとり、無届遅刻の場合は、遅刻二時間までは日給の四分の一、二時間をこえる場合にあっては日給の二分の一のそれぞれ減給処分をする定めとなっているため特に賃金カットをせず、指導員の急病によって教習中断があった場合には恩恵として賃金カットをしていないこと、以上の事実が認められる。そして、本件ミニ・ストの場合はともかくとして、従来被告の右の取扱いについてA労組ないし原告らと被告間において問題とされたと認めるに足る証拠もないし、他に右認定を左右するに足る証拠もない。以上の事実に基づいて考えると、本件雇用契約において定められた原告らの債務は、原告らが主張するように、原告らが単に前記の教習ダイヤの定めるところに従い労務を提供しただけでは足りず、更に右教習ダイヤの単位教習、就中最小限度各単位教習中の実指導五〇分間を一人の指導員によって完結させることを要件とするものであったと認めるのが相当である。なお、ストライキによって教習が中断された場合、教習業務運営指針四〇条の定めるところに従い補足教習が可能であることは前判示のとおりであるが、同条の定めるところは、道交法施行規則三三条一項所定の一時限の教習が中断されることによって生ずる教習生の不利益を例外として救済することを目的とするものであることは、同条の文理によって明らかであるから、この規定の存在することが右のように本件雇用契約の内容を認定するうえでの妨げとなるものではないし、また、雇用契約ないし労働契約の本質が契約によって他人の労務を利用することそれ自体であり、この労務の利用それ自体の対価として賃金を支払うことをもって契約の内容とするものであることはいうをまたないところであるが、契約の締結に当り、労働者が単に使用者の労務指揮権に従って労務の提供をしたのみでは足らず、その状態を限られた時間内において継続することを契約の要件として加えることも、それが例えば労基法五条その他の強行法規又は民法九〇条に違反するなどのことがない限り、契約当事者の自由になしうるのが原則であって、そのことによって生ずる労働者の不利益は、集団的労働関係において回復されるべきものとするのが法の建前であり、右の強行法規違反等の事実の認められない前記認定の本件雇用契約は有効といわざるを得ない。
 (二)そうして見ると、被告が本件ミニ・ストの行われた単位教習時間につき、右ストライキによりその単位教習時間全体につき本件契約の定めるところに従った債務の履行がなされなかったものとして原告らの賃金を計算したのは相当というほかない。