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ID番号 01045
事件名 懲戒無効確認等請求事件
いわゆる事件名 新日鉄室蘭製鉄所事件
争点
事案概要  会社主催の成人祝賀会に出席した際に、ビンを壁に投げつける、アジ演説をする等の妨害活動を行なった労働者らが、就業規則に基づき条件付出勤停止処分に付され賞与、定昇分の賃金を支払われなかったので、当該懲戒処分の無効確認および未払賃金の支払を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法11条,89条1項9号,91条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 労基法91条の減給
裁判年月日 1975年3月14日
裁判所名 札幌地室蘭支
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 263 
裁判結果 一部認容 一部棄却(確定)
出典 労働民例集26巻2号148頁/時報775号169頁
審級関係
評釈論文 水野勝・労働判例223号4頁/菅野和夫・ジュリスト627号114頁
判決理由  〔賃金―賃金の範囲〕
 労働基準法一一条によれば、同法上の賃金とは労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうと定義されており、《証拠略》によれば、被告会社は賞与支給規程を定めて毎年二回賞与を支給することとし、各年ごとに賞与支給要件などにつき労働協約を結び、これにもとづき各従業員に支給してきたこと、昭和四七年中元賞与についても、そのような協約により明確に支給要件が定められていたこと、この要件によると被告会社の裁量により定められる部分は明確に限定され、その余は各自の資格要件等にもとづき一定の計算に従って算出され被告会社の恣意は許されないことが認められ、これら賞与支給の実態からすれば、使用者が任意的、恩恵的に支払うものとはとうていいえず、少くとも労働協約が締結された以上、賞与を受給することは個々の労働者の権利となっていること明らかであるから、右中元賞与も労働の対償としての性格を有し、労働基準法上の賃金たる性質をもつものであることは多言を要しない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 《証拠略》によれば、社員就業規程四五条五項は「条件付出勤停止は、以後第四六条または第四七条に該当する行為があった場合には、懲戒解雇に処することを明示した上で始末書を提出させ一〇日以内出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。」と規定していること、そして右四六条は、けん責、減給、出勤停止の事由を規定していることが認められる。
 (中 略)
 条件付出勤停止制度は、あくまで懲戒解雇に該当する者に対し、その処分を猶予する制度であるから、この処分を受けた者の地位の不安定はある程度受忍しなくてはならず、右不安定さを軽減する被告会社の弾力的運用の方針にも一応労使慣行上の裏付けがあるものと言うべきであり、また右制度の沿革に照らしても条件付出勤停止制度の存在が許されないとは言えず、該認定と相容れない原告らの主張は採用できない。
 (中 略)
 《証拠略》によれば、右賞罰委員会において出席委員全員が原告らの行為が懲戒解雇に該るという点では意見が一致したが、一部委員から原告らがまだ若年であること、生産業務自体を妨害したものでないことを考慮して、条件付出勤停止処分にとどめるべきだとの少数意見が出され、懲戒権者たる所長はこの少数意見を考慮して本件懲戒処分をしたことが認められる。
 以上の諸事実を考慮すれば懲戒解雇を減じてした本件懲戒処分は決して重いものとは認められず、したがって、懲戒権を濫用したものとは言えない。
 〔懲戒・懲戒解雇―労基法91条の減給〕
 労働基準法九一条の趣旨からすれば、期間中に労働に従事したにもかかわらず、一定の事由によりその対償としての賃金の全部または一部を支給しない旨定めることは、その事由が一旦発生した賃金債権の消滅事由として規定されるか、あるいは賃金債権の発生そのものの障害事由として規定されるかによりその本質を異にするものとは考えられないから、ともに同条にいう減給にあたると解すべきであり、前記賞与協定四条一項二号によれば、条件付出勤停止処分を受けたものは他に存する企業への貢献度を一切考慮することなく、一率に無資格者と定め、不完全受給資格者と比べ極めてきびしく取り扱われているものであり、右条項は労使間の協定という形式をとってはいるものの実質的には懲戒事由該当を理由としてこれに対する制裁を定めたものと言わざるを得ない。もし、被告会社の主張するように賃金債権発生の障害事由として定める場合には前記九一条に牴触しないとするならば本件賞与のみならず毎月支給される賃金についても適宜減額しうることとなり、結局同条項の潜脱を許すこととなる。以上のとおり、賞与協定四条一項二号の規定は制裁として賃金を減給する定めであり、それが労働基準法九一条の制限を超えるものであることは明白であるから無効である。それゆえ、原告らは賞与協定において賞与支給有資格者として他の同種社員と同様に取扱われるべきものである。
 (中 略)
 《証拠略》によれば、技術職の成績率は基準額の上下各三〇パーセントの範囲内でのみ被告が成績考課にもとづき査定することができ、この範囲内では被告の裁量が認められるが、少くとも基準額の七〇パーセントについては右査定をまたず求めうる。