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ID番号 01124
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 工学院大学事件
争点
事案概要  死亡時に内縁の妻を有していた労働者の死亡退職金につき、別居していた戸籍上の妻に対して支払うことが求められた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法11条,89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 死亡退職金
裁判年月日 1978年2月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 2256 
裁判結果 認容
出典 労働民例集29巻1号65頁/時報895号118頁/労経速報975号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  一 請求原因1の事実及び同2のうち、内規に基づき計算した松夫の退職金の額が二七九万六〇〇〇円になることは当事者間に争いがなく、(書証略)によれば、内規第二条には、「前条による退職金は、本人に支給する。本人死亡の場合には、労働基準法施行規則第四二条から第四五条までの規定を準用する」と規定されていることが認められる。
 (中 略)
 内規第二条において規則第四二条ないし第四五条の規定を準用していることは前記認定のとおりであるところ、規則第四二条第一項は、「遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ)とする」と規定し、内縁の妻であっても遺族補償を受けうることを明らかにしているが、法律上の妻がある場合にいずれが受給権者となるかについては触れていない。
 そこで、同条項(従って内規第二条)の解釈につき考えるに、規則第四二条第一項の括弧書部分は、婚姻の届出こそしていないが社会的事実としての夫婦共同生活体をなしている関係(内縁関係)にある一方の者に遺族補償の受給権がないとするのはその実体に照らし不合理であるとの立場を明らかにしたものであって、他に法律上の配偶者のいない通常の場合を予定しているものと解せられるから、本件のように苟も法律上の妻がいるときは、これがすでに死亡労働者と事実上の離婚をしているという特段の事由がある場合を除いては、内縁の妻には受給権がないと考えるのが相当である。そして、原告とAとは一五年弱も別居し、両者間には夫婦共同生活の実体が存在しなくなっていたものではあるが、原告はあくまでAの帰宅を望んでいて、その所在を捜したこともあり、Aからの離婚の申出に対してもはっきりと拒否していたのであって、離婚の合意はなされていないことが明らかであるから、両者が事実上の離婚をしていたと解する余地はない。
 なお、被告は、原告とAとは長期間別居していて、両者間には夫婦生活の実体がなかったのに対し、BはAの内縁の妻としてAの死亡当時同人と同居しその収入により生活を現実に維持していたから、Bが受給権者である旨主張し、Aの死亡当時、原告・A間に夫婦共同生活の実体が存在しなくなっていたこと、BがAの内縁の妻としてAと同居し、従ってこれと生計を一にしていたことは前記認定のとおりであるから、Bに同情すべき面が全くないとはいえないが、規則上、配偶者たる遺族補償受給権者については労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していたことないしこれと生計を一にしていたことが受給の要件とされていないのみならず、原告にしてみれば、自らの意思によらず、しかも納得できる説明もなされず長期間の別居を余儀なくされ、その間当然受けるべき協力、扶助も得られなかったのであり、Bは原告の存在を知っていたにせよ知らなかったにせよかかる不自然な状態の維持に荷担していた訳であるから、原告を排除してBが受給権者となるためには、少なくとも原告とAとの間で、夫婦共同生活の実体の不存在という事実のほかに離婚の合意があったことを要するものと考えるのが相当というべきである。
 従って、本件においては、受給権者は原告と考えるべきである。