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ID番号 01127
事件名 退職手当金請求控訴
いわゆる事件名 神奈川県事件
争点
事案概要  県が県職員と内縁関係にある者を死亡退職金の受給権者としたことにつき、法律上の妻が公序良俗に反するとして、右退職金の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法90条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 死亡退職金
裁判年月日 1981年8月31日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ネ) 453 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集32巻3・4合併号576頁
審級関係 上告審/最高二小/昭58.11.25/昭和56年(オ)1185号
評釈論文
判決理由  被控訴人の職員の死亡による退職手当の支給、その受領権者の範囲及び順位を定めた条例第二条及び第一一条は、第一順位の受領権者を内縁関係にあるものを含む配偶者とし、右の配偶者があるときは子を受領権者としておらず、また、嫡出子と非嫡出子とを平等に取り扱い、死亡した職員の収入によって生活を維持していたかどうかにより順位に差別を設けるなど、受給権者の範囲及び順位について民法の定める相続人のそれと著しく異なった定め方をしているのであって、条例の右規定は、職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を主たる目的としているものと解される。もとより、法律上の婚姻関係にある者が重ねて婚姻をすることは民法第七三二条の禁止するところであり、法律上の婚姻関係にある者が重ねて事実上の婚姻関係(重婚的内縁関係)に入った場合にも、このような事実上の婚姻関係にある配偶者は、原則として条例第一一条にいう配偶者としての保護を受けることができず、同条にいう配偶者には含まれないものというべきである(控訴人ら主張の人事院規則も、国家公務員の遺族補償について同様の趣旨の一般原則を規定したものと解される。)が本件の場合、衛男ととらとは、すでに二〇数年の長期にわたって別居し、夫婦としての協同関係は全く存在せず、離婚の届出はしていないが、離婚の合意をした事実もあり、互に無縁の状態を続け、婚姻生活の回復をはかる意欲も気持もないのであって、法律上は婚姻関係にあっても、その実体はかなり以前から全く失われ形骸化しているのに対し、AとBとは、婚姻をする意思の下に二〇数年の長期にわたり社会的事実としての夫婦共同生活体を構成し、双方の収入によって生計を維持していたのであって、このような場合には、前示のような条例の規定の趣旨にかんがみると、重婚的内縁関係にある配偶者の生活の保護をはかり、その配偶者もまた条例第一一条にいう配偶者に含まれるものと解するのが相当であり、このように解しても、民法第七三二条の趣旨と相い容れないわけのものではなく、また、倫理観念ないし公序良俗に反するものとも考えられない。