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ID番号 01167
事件名 特殊勤務手当請求事件
いわゆる事件名 福岡市消防局事件
争点
事案概要  特殊勤務手当について、消防吏員は、勤務の特殊性を有し、かつ、支給の要件である勤務時間数を満たすとして、その支払を求めた事例。(棄却)
参照法条 労働基準法2章,34条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の定義
裁判年月日 1981年2月24日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 1329 
昭和54年 (ワ) 1676 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 行裁例集32巻2号253頁/時報1008号189頁/労働判例368号63頁
審級関係 控訴審/03133/福岡高/昭59. 9.26/昭和56年(ネ)135号
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―賃金の計算方法〕
 消防吏員全員に共通する職務の危険性等及び勤務時間に係る特殊性は、給与において考慮する必要のあるものであるとともに、恒常的、常態的にとらえることができ、標準化、画一化して評価することのできる性質のものであることから、被告市においては、消防吏員に対し一般行政職員に適用される行政職給料表とは異なる消防職給料表を定めており、隔日勤務者の勤務時間の特殊性まで含めて、給料によってある程度考慮されていると思われる。他方、勤務の特殊性を特殊勤務手当で考慮する場合とは、言い換えれば、その特殊性を給料で考慮することが適当でない場合において始めて問題にすることになるのであるから、既に消防吏員に共通する職務の特殊性が給料で考慮されている以上、消防吏員らの勤務時間の特殊性は第一種勤務差手当の適用対象とならないと解せられる。また、(人証略)によれば、被告市ではこれまで前記消防吏員の職務の特殊性を給料で考慮したとして、運用上、勤務時間の特殊性に係る第一種勤務差手当を支給していなかった事実も認められるし、特に、前説示のとおり、消防職員勤務規程上からも、隔日勤務者の勤務時間が一当務二〇時間、四週間を平均して一週間につき六〇時間であるから、このことだけからも、特勤手当条例四条二項各号の勤務時間の職員に該当しないのは明白であり、例規上からも隔日勤務者に対する第一種勤務差手当の支給を考慮していないというべきである。従って、被告市においては、原告ら隔日勤務者は第一種勤務差手当の支給対象にならないと解するのが相当である。
 これに対して、原告らは、消防吏員中毎日勤務者にも隔日勤務者と同一の消防職給料表を適用していることや、一週間につき四五時間が勤務時間である看護婦には、行政職給料表と異なる医療職給料表を用いながら、それでも第一種勤務差手当を支給しているのであるから、これと対比して、勤務時間の特殊性を考慮したとするならば不公平な取扱いである旨主張する。
 しかし、毎日勤務者との関係について見れば、前掲《証拠略》によると、八〇〇名を超える被告市の消防吏員のうちその七〇ないし七五パーセントにあたる者が隔日勤務者であり、その余は概ね毎日勤務者であることが認められる。そうだとすれば、消防吏員は、その大部分が隔日勤務者であって、その勤務は長時間にわたることを常態とするもの、換言すれば、消防吏員の勤務体制は、総体的に見て、隔日勤務を通常の形態とするものであるということができる。しかも、消防職員勤務規程六条によれば、毎日勤務者であっても、消防吏員であれば、必要に応じ、隔日勤務者と同じように、一週間につき六〇時間の勤務をすることがある。のみならず、右証言によれば、消防吏員である以上、毎日勤務と隔日勤務との間の人事交流の要請があることを認めることができる。以上を総合すると、消防吏員に対して、一律に消防職給料表を適用する必要性と妥当性が存するというべきである。そして、消防吏員に対して一律に同給料表が適用されるからといって、隔日勤務者の勤務時間差が給料上考慮されていないとすることはできない(この点は、むしろ、毎日勤務者が隔日勤務者の勤務時間の特殊性の反射的利益を享受しているものと見受けられる位である。なお、毎日勤務者に対する隔日勤務者の職務の特殊性の差については、昭和五四年三月三一日以前における特勤手当条例三三条、同施行規則六条一項により第三種勤務差手当である消防手当の支給額に関して隔日勤務者の方を有利に扱い、同条例四九条の二、同規則八条の二により第四種勤務差手当である夜間業務手当を隔日勤務者に支給するなどして一応の考慮が払われていた。)。
 また、看護婦との対比については、(証拠略)を総合すると、看護婦に対して医療職給料表(二)が制定、適用されるに至ったのは、被告市の人事委員会が昭和四九年八月一二日付で、「看護業務の複雑困難化及び要員確保の必要性等の事情を考慮して」所要の措置を講ずるよう勧告した結果であると認められるので、消防職給料表の制定とは趣旨を異にし、医療職給料表(二)が勤務時間の特殊性を給料表化したものではないといわなければならない。従って、医療職給料表(二)の適用を受ける看護婦が第一種勤務差手当の支給を受けたからといって、このことをもって、消防職給料表の適用を受ける消防吏員との間に不公平を生ずるものとは考えられない。
 〔休憩―休憩時間の付与―休憩時間の定義〕
 労働基準法第四章に定める労働時間(「正規の勤務時間」がこれに相当するものである。)とは、原則として、労働者が労働するために使用者の指揮監督のもとにある時間をいい、通常、かかる監督下にない休憩時間は、労働時間に含まれないと解される。従って、同法八九条一項一号に定めるような勤務の開始から終了までの時間は、これがすべて労働時間ということはできず、いわゆる拘束時間と呼ばれるものであって、その中には休憩時間が含まれることになる。しかし、消防吏員には、同法四〇条、同法施行規則三三条一項一号によって、休憩時間自由利用の原則(同法三四条三項)の適用が除外されているから、現実には、被告市の消防吏員について、消防職員勤務規程九条五項で、「休憩はすべて庁舎内において行わなければならない。」、同条六項で、「職員は休憩時間中外出しようとするときは所属長の承認を受けなければならない。」との規定があるにとどまるにしても、消防吏員の休憩時間は、建前として自由に利用することができるものではなく、従って、権利として勤務から離れることを保障されているわけでもないと見なければならない。故に、これは、勤務時間に含まれないものと解すべきではないことになる。また、隔日勤務とは、前示のように、継続二四時間の当務と継続二四時間の非番を繰り返す勤務形態をいうのであり、このような継続勤務の場合は、人体の基本的な生理である睡眠の必要性から、夜間継続四時間以上の睡眠時間の附与は不可避と思われる(同規則二六条二項参照)。そうして、その睡眠時間は、権利として勤務から離れることを保障されるべき時間であるから、勤務を要しない時間として、勤務時間に含まれないと解するのが相当である。被告市において、消防職員勤務規程九条三項は、「隔日勤務者の休憩時間は、午前一一時から午後二時までの間に一時間及び午後五時から翌日の午前八時までの間に連続した四時間以上の休憩時間を含む一〇時間とし、その割振りは所属長が指定する。」と規定している。(証拠略)の結果を総合すると、隔日勤務者は、災害出動や救急出動等不時の出動の場合を除き、また、小規模の出張所等は別として、平常の一当務として、午前九時(又は午前九時三〇分)から午後〇時までと午後一時から午後五時まで警戒、訓練、通信、機器整備、受付その他雑務整理等の勤務に従事するほかは、午後〇時から午後一時までと午後五時から午後六時までの各一時間を食事などのために利用される休憩時間、午後六時から午後八時まで待機時間、午後八時から翌朝午前七時までの間交代で一時間の通信勤務につく以外は待機時間と休憩時間を合せて仮眠することができ、そのうち少なくとも四時間を仮眠時間と呼んでおり、午前七時から午前九時(又は午前九時三〇分)まで整理や準備にあてるという運用が行われていたことが窺われる。右認定事実からすれば、実際には仮眠時間と呼ばれている右規程の夜間連続した四時間の休憩時間は、労働基準法施行規則二六条二項所定の睡眠時間に相当すると見るべきである。従って、隔日勤務者の一当務二四時間のうち右規程九条三項所定の休憩時間が一一時間を占めることになるが、この休憩時間のうち少なくとも夜間連続した四時間は、休憩時間という名称ではあっても、勤務を要しない時間として、給料支給の対象となる勤務時間に含めて考えるべきでないということになる。もっとも、睡眠時間に相当すると見られる右の四時間は、二四時間の拘束時間に含まれているうえ、その性質上庁舎内で睡眠しなければならないという時間的、場所的制約を受けることはいうまでもなく、職務専念義務を負わないというにとどまり、この点において、前示のように労働基準法三四条三項の適用を除外されている本来の休憩時間とその性質を異にすると考えるべきである。ただ、消防吏員は、勤務を要しない時間である睡眠時間中であっても、労働基準法三三条三項、消防職員勤務規程七条により緊急出動の義務があると定められているので、この意味では、完全に勤務から解放されているとはいえないかもしれないが、この場合の勤務に対しては、別途考慮すべきこととなるのはいうまでもない。これに右規程三条二項及び六条の規定や一週間につき三当務が時間的限度であることを対比するとき、同三条二項の一昼夜勤務に拘らず同六条で一週間につき六〇時間を勤務時間と定めたのは、右の睡眠時間が考慮されてのことと考えられ、従って被告市における原告ら隔日勤務者の正規の勤務時間は、一当務二四時間の拘束時間のうち、前記の継続四時間の睡眠時間に相当すると見られる時間を除いたところの一当務当り二〇時間であり、四週間を平均して一週間につき六〇時間であると解するのが相当である。