全 情 報

ID番号 01179
事件名 雇用契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 電気化学工業事件
争点
事案概要  職務怠慢、経営方針違反等の理由で懲戒解雇された者が雇用契約存在確認の訴えを提起した事例。
参照法条 労働基準法32条1項,89条1項9号
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
年休(民事) / 年休の振替
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
裁判年月日 1962年3月30日
裁判所名 新潟地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 111 
裁判結果
出典 労働民例集13巻2号327頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間―労働時間の概念―タイムカードと始終業時刻〕
 労働者は労働協約、就業規則などで定められた所定の労働時間中、一定の条件にしたがい、使用者のためその指揮、命令のもとに労働する就労義務を有するものであるが、時間外労働の協約などによる超過労働の場合を除いては右労働時間を超えて就労する義務を有しない。そして右労働時間とは特段の事由のない限り工場に入門した時より退門までと解すべきであるから、右の特段の事由が就業規則などで規定されているか、あるいは労使関係において慣行的事実として現存していない以上、使用者は従業員が各自その担当職場で引き継ぎを受け所定の始業時刻までに勤務場所に到着し始業時刻にただちに勤務を開始することを命じることはできないものというほかはない。ところで、前掲各証拠によれば、青海工場においてはかなり広い地域にわたり事務所、作業所などが散在し、タイムカードが設置されている南門、正門および北門から各課作業所まで相当の距離があり、そのうえ従業員は各作業所の休憩所などで作業衣に着替えをする必要があるため、入門してから各作業現場に到着するまでにかなりの時間を要するところから(現に本件においても原告が北門を入門し南門に到着するまで一二分位を要している。)、従業員は各自休憩所などで作業衣に着替え、午前八時三〇分までには指示された勤務場所に到着し、交代引き継ぎなどを終り、始業時刻には作業を開始する慣行があったものと認められるので、原告の右行為は就業規則第三五条第二号、第八号所定の規定の時刻を守らず、正当な理由がなく遅刻したものに該当するものといわなければならない。(しかしながら、原告の右行為はたんに数分間の遅刻にとどまり該行為により惹起された貨物列車の停車は事後の作業にほとんど支障をあたえなかつたものであるから、これをもつて被告会社主張のような懲戒事由には該当しない)。
 〔年休―年休の振替〕
 年次有給休暇請求権による休暇の時期をいつに決定するかは使用者に留保されるべきであるから、年次有給休暇を請求する場合労働者はあらかじめ時期を指定し、これを使用者に通知することを必要とし、労働者において任意に遅刻その他の事情により就業にさしつかえた日を有給休暇に振りかえることはできないものと解すべきであるが、使用者において労働者の申し出により遅刻その他の事情で就業にさしつかえた出勤日を年次有給休暇に振りかえた場合には、その出勤日は、あらかじめ決定されている休日と同じく始業時刻当初からの休日となるのであるから、右出勤日における労働者の遅刻などの就労態度を、通常の出勤日と同様に評価し就業規則違反の責任を問うことは相当でない。よってこれを本件について考えてみるに、前記認定のとおり原告は昭和三二年八月四日飲酒し遅刻したが、すでに原告の上司であるA警備係長において右遅刻の責任を問わず異議なく同日を有給休暇に振りかえた以上、右の原告の行為を被告会社主張のような懲戒事由に該当するものと評価することは許されないものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇・懲戒事由―政治活動〕
 雇傭契約にもとずき使用者は従業員より労務の提供を受けこれを企業体の事業目的に供する権利を有するものであるから、右の労務をもつとも有効適切に利用するため、勤務時間中あるいは使用者の管理する事業所などの施設における従業員の政治活動ないし言論の自由を、企業体の事業目的達成、生産性の昂揚の目的に必要な限度において制限することは合理的理由にもとづく制約として是認されてよいが、右の範囲を超えて従業員が一市民として有する右の諸権利を一般的包括的に禁止することは許されないものというべきである。被告会社は前記認定のとおりセメント、石灰窒素および有機合成化学製品などの製造販売を業とする株式会社であるが、企業防衛のため競業会社の進出を阻止することを経営方針とし、該方針のもとに地方選挙において特定の政治政策を支持し、あるいは立候補者を応援するなどの政治活動をすることも被告会社の経営権の範囲内の事項として容認されてしかるべき事項であるが、従業員が勤務時間外に被告会社の事業所などの施設外で右の経営方針に反する政治的活動を行うことを一般的に禁止し、懲戒権をもつてこれを強制することは、従業員が一市民として有する権利自由の不当な侵害として許容されないものというべきである。これを本件についてみるに、原告が勤務時間中あるいは青海工場の構内で前記Bなどの諸団体の一員としてC会社誘致運動をし、あるいは前記Dの選挙運動を行なったことを認めるに足る証拠はないから、原告の前記行動を被告会社主張のような就業規則所定の経営方針背反行為として懲戒解雇事由に該当するものと評価することは相当でなく、この点にかんする被告会社の主張は理由がない。