全 情 報

ID番号 01196
事件名 労働契約関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 三菱重工事件
争点
事案概要  被告が面着制による勤怠把握を就業規則に定めたのに対し原告らが就業規則の一方的不利益変更にあたるとして従わなかったところ、被告が右基準により不就業と認定した労働時間につき賃金をカットしたので原告らがその支払と原告ら主張の始終業時の確認を求めた事例(棄却)。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法34条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 着替え、保護具・保護帽の着脱
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 入浴・洗顔・洗身
休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 自由利用
裁判年月日 1985年6月26日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 100 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集36巻3号494頁/時報1165号178頁/タイムズ572号70頁/労働判例456号7頁/労経速報1226号5頁
審級関係
評釈論文 山本吉人・判例評論327〔判例時報1183〕55~58頁1986年5月/新谷眞人・季刊労働法137号193~196頁1985年10月/中窪裕也・昭和60年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊862〕205~207頁1986年6月
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-差替え、保護具・保護帽の着脱〕
〔労働時間-労働時間の概念-入浴・洗顔・洗身〕
 1 労基法三二条一項は「使用者は、労働者に……一日について八時間……を超えて、労働させてはならない。」と規定しており、その文言に照らせば、同条にいう労働時間とは、労働者において、使用者に対し、現実に労働力を提供している時間をいうものと解するのが相当である(なお、使用者がその提供された労働力を現実に利用するか否かは問題ではなく、この意味でいわゆる手待時間は労働時間に含まれるものと解される。)。また、斯く解することが、労働者がその労働力を提供し、使用者がその対価として賃金を支払うという労働契約の性質に添うものと考える。もっとも、厳密には現実の労働力の提供に該らない行為につき、使用者が自らの意思で、あるいは労使間の合意で労働力の提供と看做し、あるいはこれを労働時間内に行なうように定めること自体は強行法規に反しない限り自由であるから、この場合の労働時間は右定めに従うことになることとなる。
 而して、作業服などへの更衣は、労働に相応して態勢を整えるという点で労働力の提供の準備行為とはいえるが、その更衣なくしては現実に労働力が提供できないものではないから、それ自体は、労働力の現実の提供とは解されない。同様に、作業終了後の更衣、洗顔、洗身、入浴もこれなくしては労働力の現実の提供ができないものではないから、これらをもって労働力の現実の提供とは解されない。即ち、更衣、洗顔、洗身、入浴を労働時間外に行なうように定めたとしても、そのこと自体からは、同条に違反しないものと解するのが相当である。
 (中略)
 そこで、この様に義務付けられた作業服の着衣などの着脱の時間を労使いずれの負担とすべきかについて考えるに、被告が作業服の着装を原告らに対し義務付けているのは、労働安全衛生法、労働安全衛生規則などの法令により、罰則の裏付けの下に被告が義務付けられている結果であり、被告の自由意思に基づくものではなく、また、作業服の着装はもっぱら原告ら労働者の安全のために義務付けられているものであり、そのことにより被告は直接的な利益を得ていないことに照らせば、作業服などの着装は原則として労働者の自由時間内において行なうべきものであり、使用者の負担の下、労働時間内に行なうべきことは被告の意思に反して強制できないものと解するのが相当である。さらに、作業服などの整理整頓の義務付けは、自らが義務付けられている原告ら労働者の作業服の着装を確実にするための手段に過ぎないものと解されるから、前同様、被告の意思に反して労働時間内に行なわせることを強制することはできないものと解するのが相当である。
 さらに、前同様の理由の他に、被告において法令上入浴施設を設置することが義務付けられてはいるものの、被告は原告ら労働者に対し、入浴を義務付けていないことを併せ考慮すれば、被告の意思に反して入浴時間を労働時間内に設けることを強制できないものと解するのが相当である。
〔休憩-休憩の自由利用-自由利用〕
 3 また、本件始終業基準によれば、午前の終業は、所定の終業時間(午後零時)に実作業を中止し、その後食堂、休憩所へ向かう。午後の始業前に、午後の始業に間に合うように遊戯などをやめて作業場に到着する。午後の始業は、所定の始業時刻(午後一時)に作業場において実作業を開始する旨規定されている。ところで、作業場と休憩所、食堂とは必らずしも近接していないため、休憩所、食堂などで休憩、食事をしようとする場合にはその往復に要する時間だけ一時間の休憩時間が削減される結果になっている(この事実は被告において明らかに争わないところである。)が、本件全証拠によるも、右一時間の休憩時間中、被告において原告ら労働者に対し、特定の休憩所、食堂でのみ休憩時間を過ごすことを強制するなどその自由利用を妨げている事実は認められないから、本件始終業基準は労基法三四条に違反しない。