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ID番号 01205
事件名 仮処分異議控訴事件
いわゆる事件名 京都製作所事件
争点
事案概要  出張命令に従わないことを理由とする使用者がなした解雇につき、右出張は時間外労働を伴い、三六協定が失効中である以上労基法に違反する無効なものであるとして、その効力を争った仮処分事件。
参照法条 労働基準法36条
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1980年2月19日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 2228 
裁判結果 棄却
出典 時報974号127頁/労働判例342号69頁/労経速報1050号3頁
審級関係 一審/京都地/昭51.11.25/昭和48年(モ)1499号
評釈論文 山本吉人・判例評論266号41頁/籾山錚吾・ジュリスト740号149頁
判決理由  出張先で処理することを命じられた用務は出張者の就業時間帯と関係なく、且つ漁獲状況によって始業、終業が一定せずに運転されるオートケーサーを保守、点検、修理し、その円滑な稼動を確保することにあったから、出張者の被控訴人が労働時間を自主管理するという控訴人の主張もオートケーサーの順調な運転に影響を与えない範囲内という制約のもとでのものであり、客観的にみて出張者が時間外労働までしないと処理し終えない業務であることが明らかであり、本件出張と時間外労働とは不可分の関係にあるものというべきである。かかる場合出張先での労働時間につき明示の指示がなくても出張業務を処理する時間だけ働くべき旨即ち労基法上の時間外労働をなすべき旨の黙示の指示があったものと解すべきで、三六協定がなければ労働者の同意があったとしても使用者は労基法三二条一項違反の責任を免れず、労働者がこれを拒否したとしても労働者側になんの責任も生じず、前記の如き関係にある本件出張命令も亦違法無効であると解するのが相当であり、このことは、被控訴人の拒否理由が特に時間外労働に対するものでなくても、その理を異にするものではない。
 被控訴人に対し本件出張命令が発せられた当時、従前の三六協定は失効し、新たな協定も締結されていなかったことは控訴人も認めるところであり、《証拠略》によると、前年度の協定が期間経過により失効した後、会社は疎甲第二〇号証の案を示して組合と折衝したが、時間わくの点で組合と了解点に達せず、組合の役員選挙の問題もからんで交渉は中断状態であったこと、その間は従前の慣行により時間外労働を行うとの了解が組合との間に成立していたこと、新しい協定が所轄労基署に届出されたのは本件解雇後であったことが一応認められるが(右認定を左右するに足る証拠はない。)労基法第三六条によれば、使用者は協定書が行政官庁に届出られた後、初めて時間外労働を適法に命じ得るものであるから、たとえ組合との間で時間外労働は従前の慣行によることの了解が成立し、強行法規違反の時間外労働が労働者側の反抗なく慣行的に行われていたとしても、かかる慣行が「事実たる慣習」として労働契約の内容に入りこみ、労働者の義務となりうる余地は全くなく、これを拒否しても労働者側にはなんらの責任も生じないと解するのが相当である。