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ID番号 01336
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 国鉄郡山工場事件
争点
事案概要  一日または半日単位の年休指定に対し、これらをいったん承認したが、一斉休暇闘争のためと判り賃金カットをした事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1964年12月11日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 512 
裁判結果 (控訴)
出典 労働民例集15巻6号1258頁
審級関係 上告審/01340/最高二小/昭48. 3. 2/昭和41年(オ)1420号
評釈論文 花見忠・ジュリスト358号135頁/山本博・月刊労働問題86号108頁
判決理由  〔年休―年休権の法的性質〕
 有給休暇の承認権者は原告らの所属長である工場長であるが、慣行により職場長又は助役が承認を与えていたこと、工作指導掛が承認を与えることもあるが、この場合も職場長に代ってなしたものとして有効な有給休暇の承認として取り扱われていたことは被告の自認するところであって、原告らもこれを明らかに争わないところである(もっとも弁論の全趣旨によると、原告らは有給休暇請求権の性質につきいわゆる形成権説を採るものであるから、原告らにおいては、以下に述べる理由により右承認、不承認とは時季変更権不行使、行使の意思表示であり、承認権者とは時季変更権の行使、不行使の決定権者の趣旨と解する。当裁判所も、労働基準法第三九条第三項によると、労働者に有給休暇の時季指定権を認め、ただその時季が事業の正常な運営を妨げる場合にのみ使用者に時季変更権を与えているところから、有給休暇請求権は形成権と解する。したがって有給休暇は、承認をまたず請求によって効力を生じ、ただ事業の正常な運営を妨げる場合使用者の時季変更権の行使によってその効力の発生を阻止されるにすぎないから、有給休暇の承認、不承認とは時季変更権不行使、行使の意思表示にすぎないし、承認権者とは時季変更権の行使、不行使の決定権を有する者を意味するものである。以下「有給休暇の承認、不承認」「承認権者」の用語は右の意味において使用する)。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 ところで有給休暇請求権の本質については争いがあるが、労働基準法第三九条第三項が、使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないとし、ただ事業の正常な運営を妨げる場合に限りこれを請求した時季に与えず他の時季に与えることができる旨を規定していることからすると、同項は労働者にあくまでも自由な時季に自由な時間を与えようとしつつ、それを事業の正常な運営が犠牲とならないようにとの考慮から、労働者の権利の保護と、事業の正常な運営の維持との調整を図つたものと解せられる。従って有給休暇は、あくまでも使用者が労働者の労働力を支配するという作業体制にあることを前提とするものであるといわねばならない。ところで争議行為は、労働者がその労働力を使用者の支配から離脱させ、作業体制を一時的にこわすことを本質とするものであるから、この点で使用者が労働者の労働力を支配するという作業体制を前提とし、その枠の中で認められる有給休暇制度とは本質的に相容れないものといえる。従って労働者は、争議行為のために有給休暇を請求できないし、使用者は、労働者が有給休暇を争議行為に利用する目的で請求したことが明らかな場合には、これを拒否して与えないことができるのであり、労働者が右の目的を秘匿して請求したため(労働者が有給休暇を請求するにあたりその利用目的を述べる必要のないことは、前記法条の規定の仕方からみても明らかであるから、使用者は、事前にその利用目的を知ることができない場合が多いであろう。)すでに有給休暇の請求に承認を与えた場合にも、労働者がそれを争議行為に利用したときは、有給休暇の成立を否定し、賃金の支払いを拒絶できるものと解する。