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ID番号 01339
事件名 勤勉手当請求事件
いわゆる事件名 富山県教員勤勉手当請求事件
争点
事案概要  組合大会出席のための年休請求を不承認とされ、不承認のまま組合大会へ出席した後に書面訓告を受け、勤勉手当について低い成績率を適用された教員らが、本来支給されるべき勤勉手当の額と既払額との差額の支払を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法39条1項,2項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
裁判年月日 1972年7月21日
裁判所名 富山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (行ウ) 1 
裁判結果 (控訴)
出典 行裁例集23巻6・7合併号553頁/時報689号111頁/タイムズ285号218頁
審級関係 控訴審/03514/名古屋高金沢支/昭49. 4. 5/昭和47年(行コ)3号
評釈論文 佐伯静治・労働判例157号6頁/中西釦治・教育委員会月報265号58頁/田代健・地方公務員月報113号34頁
判決理由  労働基準法三九条一、二項は労働者が所定の期間、所定の割合以上の出勤率で継続勤務した場合、使用者は当該労働者に対し、所定の日数の有給休暇を与えるべきことを規定している。これは使用者に対し常に従属的立場にある労働者に、毎年休日以外に一定日数の有給の裏付けある休暇を与えることにより労働者が労働から解放され、心身の休養をとることにより労働力の維持培養を図ることを目的として使用者に休暇の付与義務を課したものであるということができる。しかして、同条三項は「使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。但し、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては他の時季にこれを与えることができる」旨規定しているが、本項の趣旨は、右一、二項の規定された趣旨に照すと、労働者がその労働から解放されるべき日は、まず労働者の意思に従ってこれを決定させるべきであるとの見地から年休日の指定権を労働者に与え、ただ事業の運営に当る使用者にとって、労働者の休暇をいつにするかは重大な関心の存するところであるから、事業の正常な運営を妨げるような事由がある場合に限り労働者の指定した時季以外の別の時季を指定しうることとして、労働者の権利と使用者の利益との調整を図ったものと解すべきである。したがって、右のような事由による使用者の拒否がない以上、年休は労働者の指定する時季に定まるものであって、更に使用者の承認を得る必要はないものと考える。なお、事業の正常な運営を妨げる場合とは、使用者の自由な判断に委ねられるのではなく客観的にみて事業の正常な運営を妨げるような事由が存するか否かによって判断されるべきものと解する。
 (2)ところで、地方公務員法五七条は、公立学校教職員について、その職務および責任の特殊性から必要な場合には同法に対する特例を定めるべきことを規定しているところ、その特例法として定められた地方教育行政の組織および運営に関する法律四三条一項は、県費負担教職員はその服務について、市町村教育委員会の監督を受ける旨、同二項は県費負担教職員がその職務を遂行する際には、法令、県条例、当該市町村条例、規則、当該市町村教委の定める規則、規程に従う義務を有する旨定め、同条に基づいて定められた高岡市立学校職員服務規則一〇条一項は、職員の休暇について、「職員は休暇を得ようとするときは、あらかじめ、校長にあっては教育長の、その他の職員にあっては校長の承認を受けなければならない」旨定め、高岡市立学校教職員の休暇については所属学校長の承認がなければ、休暇付与の効力を生じないことを明らかにしている。
 したがって、原告ら高岡市立学校教職員は年休について所属学校長の承認を要するものと解する。このように解すると、前述した労働基準法三九条三項の解釈によるよりも、制限されることになるけれども、義務教育を担当する教職員の職務の公共性、重要性、不代替性等に鑑みると、法律上許される制限であると考える。
 但し、前記の年休制度の立法趣旨、年休請求権の法的性質に照すと、右にいう校長の承認権(不承認権)も無制限なものではなく、おのずから制約が存するものというべきであって、その制約を越えて校長が教職員の年休の請求を承認しなかった場合は違法たるを免れないと解する。そこでその制約はいかなる場合かについて考えるに、客観的に事業の正常な運営が妨げられるような事由が存するような場合、すなわち、各学校毎に当該教職員の請求する時季に休暇を与えることによって、児童、生徒に対する授業計画に回復しがたいような遅れが生ずる場合、あるいは、児童、生徒を管理するに当り多大な支障を生ずることが予想される場合、その他学校業務の正常な運営が阻害されるような場合で、単に繁忙であることをもってはこの場合に当らないと考えられる。
 右事実によれば、昭和四四年一〇月八日、原告ら所属の三中学校とも、教諭総数の三分の一前後の教諭が在校していず、正常な授業をなしうる状態にはなかったが、このことはかなり以前から判明していたことであったので、いずれの学校でも多数教諭の不在を補いうるような授業計画を立てられていたことが認められ、客観的にみて、当日原告らの年休を承認したとしても、生徒に対する授業計画に回復しがたい遅れをもたらしたり、生徒管理上、多大の支障を生じたり、あるいは、その他学校業務の正常な運営を妨げるような事由があったとは認めがたい。したがって、当日、多数の教諭が出張するというのみでは年休を承認しない理由とはならないというべきである。
 (4)以上の次第であるから、原告ら所属の各中学校長が、原告らの年休の請求を不承認としたのは、その余の判断をするまでもなく承認権を越えたものであって違法たるを免れないと考える。