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ID番号 01344
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 夕張南高校事件
争点
事案概要  年休の時季指定に対する時季変更権の行使にもかかわらず欠勤したため戒告処分を受けた公立高校教員らが、当該処分の取消を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
裁判年月日 1975年11月26日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 12 
裁判結果 一部認容 一部棄却(控訴)
出典 時報801号3頁
審級関係 上告審/03808/最高一小/昭61.12.18/昭和57年(行ツ)166号
評釈論文 香川孝三・ジュリスト635号140頁/堀家嘉郎・教育委員会月報323号49頁/毛塚勝利・労働判例243号14頁
判決理由  〔年休―年休権の法的性質〕
 そもそも労基法三九条にいう年次有給休暇とは、同一使用者のもとで相当期間継続して勤務し、前年度に相当量の労務を提供し、同条一、二項の要件を充足した労働者に対して法律上当然に付与される有給の休暇であり、それは労働者の当然の権利であって、使用者はこれを与える義務を負うべきものである。したがって、労働者が法律上当然に付与された休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期とを特定してその時季を指定したときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、使用者がそれを理由として時季変更権の行使をしない限り、右の指定によって当該労働日における年次有給休暇が成立し、その就労義務が消滅するに至るのである。つまり、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、労働者による「休暇の請求」や使用者による「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。かようにして、年次有給休暇の権利が法律上当然に発生する権利である以上、その利用目的は労基法の全く関知しないところであり、休暇をどのように使用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるというのが法の趣旨であると解すべきである(最高裁判所昭和四一年(オ)第八四八号、同四八年三月二日第二小法廷判決、最高裁判所民事判例集二七巻二号一九一頁。同裁判所同四一年(オ)第一、四二〇号、同四八年三月二日同小法廷判決、同判例集二七巻二号二一〇頁各参照)。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―年休利用の自由〕
 もっとも、労働者による年次有給休暇の時季指定の効果は、前説示のように使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として生じるのであるから、使用者の適法な時季変更権の行使を不可能または著しく困難にするような形での時季指定、たとえば同一事業場における労働者が意思を通じて全員一斉に同一時季を指定した場合またはこれと同視すべき場合には、権利の濫用として時季指定の効果を生じないものと解すべきである。けだし、右のような場合には、使用者において当該時季に代替要員を確保したり、労働者の配置を変更したりなどして事業の正常な運営を確保すべき手だてを講じたうえ、時季変更権を行使するなどということは不可能または著しく困難であって、使用者をこのような状態に陥れた場合にまでなお、適法な時季変更権を行使しない限り当該時季の年次有給休暇が成立すると解すべき理由はないからである。
 〔年休―時季変更権〕
 原告中ノ目が最初に年次有給休暇を請求した七月一六日にはすでに同月二〇日からの期末試験の時間割りが発表されており、しかも同原告担当の物理の試験が第一日目の二〇日に四クラスで予定されていたこと、および当時Y高において期末試験を行なう場合には、当該試験教科の担当教員に各教室を回らせて生徒の質問などに応答するという役割をもたせていたことは当事者間に争いがないところである。そもそも、期末試験は、授業の進度自体に直接の影響がないとはいえ、当該学期における授業の成果を見ることにより次学期以降の指導計画に資するなど学校にとり極めて重要な業務であって、その重要さにおいて中間試験の比ではなく、また、生徒にとっても重要なものであることはいうまでもない。それゆえ、試験中にその担当教員が在校することは、試験に伴いがちな生徒のある種の不安感を融和し、ひいてはそれが師弟間の心の触れ合いともなるという教育の重要な効果を生む結果になるのであって、これを決して過小評価すべきではないのである。このことは、前記のとおりY高において試験当日には担当教員が各教室を回って生徒の質疑に応じる習わしであったことと正に符合するものということができ、まして原告Xは唯一人の物理担当教員であったのであるから、同原告が在校することは同校の業務である期末試験を円滑に行なうために是非必要なことであったといわざるを得ない。したがって、七月二〇日に原告Xに対し年次有給休暇を与えることは同校における事業の正常な運営を妨げる場合に当り、同原告の年次有給休暇の請求は、A校長の適法な時季変更権の行使により、その効力を失うこととなるから、同原告には七月二〇日の就労義務があったものといわなければならない。
 これを本件についてみるに、前記のいわゆる事業場と目される夕張南高は、生徒に対して高等普通教育および専門教育を施すことを目的とする施設であり、四月二〇日午後半日の年次有給休暇を請求した前記九名はいずれも同校教諭であって、教育公務員特例法二条にいう教員である。そして、高等学校の教員は特定の教科に関して授業を行ない、生徒の教育に従事する業務を担当するものであるところ、その担当教科はそれぞれの教員によって異なるものであり、あるいは同一教科であっても担当する学年、学科が異なると考えられるのであるから、右各教員の担当する業務はそれぞれ別異のものという特異性がある。そうであるとすると、同一時季に年次有給休暇の請求をした者が九名であったということは特に考慮すべきではないし、たとえ考慮すべきであるとしても、全教員六〇名のうち九名がわずか午後半日の勤務を欠いたからといって、直ちに事業の正常な運営を妨げる場合に当るということはできない。結果的にも、当日の午後半日の勤務を欠いた教員は、年次有給休暇の請求をした前記九名のうち原告Xを除くその余の原告ら五名のみであって(この点は当事者間に争いがない。)、しかも右五名が当日の午後担当すべき授業は各一時限分に過ぎなかったことが《証拠略》によって認められるのである。したがって、右原告らが四月二〇日午後半日の年次有給休暇をとることによって、Y高の事業の正常な運営を妨げる事情があったということは到底できないから、A校長が右事情の存在することを理由としてなした時季変更権の行使は不適法であって、その効力を生じないものというべく、右原告らの年次有給休暇は有効に成立し、その就労義務は消滅していたものといわなければならない。
 まず、労基法三九条三項にいう「事業の正常な運営を妨げる」とは、企業またはその一部としての事業場において、ある特定の業務の正常な運営が一体として阻害されることをいうのである。そもそも労働者は日常企業またはその一部としての事業場において、特定の業務を担当しているのであるから、その労働者が休暇をとることによって必然的にその業務が欠けることになるわけであるが、労基法上の年次有給休暇の権利は、労働者が休暇をとることによって企業運営にある程度の支障を生じることを容認したうえで、それでもなお使用者にその付与義務を課したものと解するのが相当であって、このことは年次有給休暇の権利が憲法二七条二項の休息権に由来するものであることから当然に導き出される結論であるといわなければならない。したがって、事業の正常な運営が妨げられるかどうかは、一般的には、客観的にその企業の規模、事業内容、年次有給休暇を請求した者の配置、担当業務の内容、性質、業務の繁閑のほか、時季を同じくして請求した者の人数など諸般の事情を合わせ考慮したうえで合理的に決定すべきものである。