全 情 報

ID番号 01345
事件名 給料請求事件
いわゆる事件名 此花電報電話局事件
争点
事案概要  年休、病気休暇の請求を承認されず、就労しなかった時間を欠勤扱いされ賃金カットをうけた職員らが、カット分の賃金及び労基法の付加金の支払を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法39条1項,2項,4項,114条
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 時季変更権
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1976年3月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 3183 
裁判結果 一部認容 一部棄却(控訴)
出典 時報814号150頁/訟務月報22巻4号1003頁
審級関係 上告審/01361/最高一小/昭57. 3.18/昭和53年(オ)558号
評釈論文
判決理由 〔年休―年休権の法的性質〕
 一般に、労働者の年休の権利は、法三九条一、二項の要件が充足されることによって法律上当然労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではなく、労働者が、その有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季を指定(同条三項の「請求」とは休暇の時季の指定と解すべきである)したときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権を行使しない限り、右の指定によって年休が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和四八年三月二日判決、民集二七巻二号一九一頁参照)。
 (中 略)
 法三九条一ないし三項で年休を「与えなければならない」としているが、その実際は、労働者自身が休暇をとること、すなわち就労しないことによって始めて休暇の付与が実現されるのであって、法が休暇の付与義務者たる使用者に要求しているのは、労働者がその権利として有する年休を享受することを妨げてはならないという消極的な不作為を基本的内容とする義務にすぎないものと解するのが相当であり(前記判決参照)、また就業規則等に所属長の承認を要する旨規定してみても、それは強行法規たる法の定めに反するものとして効力をもちえない。いずれにしても被告の右主張は理由がないものというべきである。
〔年休―時季変更権〕
 法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」かどうかは、当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。
 (中 略)
 前認定のとおり必要に応じて随時電報課長あるいは配達係の「交付」担当の係員が、他の係員の業務を代行することが通常行われ、業務繁忙期でない限り、これによって業務の混乱を防止できていた事実に徴すれば、右のいずれの場合も、日勤帯の業務処理にあたり最低限度必要とされる前記の人員が確保されていたものと認めるのが相当である。
 してみれば、原告らの本件各年休の時季指定が業務繁忙期になされたものでないことは前認定のとおりであるから、原告らが右指定どおり休暇をとっても、原告らの各職場における右のような人員配置状況からして格別業務上の支障が生ずるおそれがあったとは認められず(A課長が原告らに休暇の事由を質し、その事由如何によっては休暇を承認しなければならないものと考えていたのも、右と同様の認識にたっていたものと推認される。)、事実、問題の当日にはいずれも前認定のとおり格別業務上の支障が生じていないのであるから、被告が主張するような時季変更権を行使すべき業務の正常な運営が妨げられる客観的な事情は存しなかったものといわなければならない。
 (中 略)
 また、被告は、就業規則等に、原告ら交替服務による職員の年休請求は、休暇日の前々日までにしなければならないと定められているのに、原告らがこの規定を遵守せず、休暇の直前になって突然年休の時季を指定したこと、あるいは休暇日の前々日までに年休の時季を指定できなかった理由を説明しなかったことが、時季変更権を行使せざるをえなかった理由のひとつである旨主張しているが、法は、労働者が年休の時季を指定すべき時期について、何らこれを制限すべき規定を置いていないから、いつ年休の時季を指定するかは労働者の自由であると解すべきであり、(ただ、使用者が時季変更権を行使する時間的余裕をおいてなされるべきことは、事柄の性質上当然である。)、就業規則等によって右時期に関する規定を設けても、それは訓示的な意味に止まり、法的な拘束力をもちえず、したがって原告らが休暇の前々日までに年休の時季を指定しなかったこと、あるいは指定できなかった理由を説明しなかったことを、時季変更権を行使する理由のひとつにすることは許されないものというべきである。
 (六)右にみたとおり、原告らが本件各年休の時季を指定した当日、被告には法三九条三項但書所定の事由が存在しなかったことが明らかであるから、被告の時季変更権に関する前記主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものというべく、したがって原告らの本件各年休は、前記のとおりその時季指定によって有効に成立しているものというべきである。
〔雑則―附加金〕
 原告らは、右付加金についても右と同様の遅延損害金の支払いを求めているが、法一一四条に基づき使用者が支払うべき付加金の支払義務は、裁判所がその支払いを命ずることによって始めて発生し、これに対する遅延損害金の起算日は該判決確定の日の翌日と解するのが相当であり、同日以前においては付加金支払義務の履行遅滞は生じていないものと解すべきであるから、原告らの本訴請求のうち、右遅延損害金の支払いを求める部分は理由がないというべきである。