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ID番号 01346
事件名 懲戒処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 北海道教育委員会事件
争点
事案概要  春闘統一行動の一環として行われる集会に参加する目的で半日の年休を請求した公立高校の教諭らが、右請求を不承認とされたにもかかわらず出勤しなかったため戒告処分に付されたので、その取消を求めた事例。(一審 一部原告認容、他棄却、両控訴棄却)
参照法条 労働基準法39条1項,2項,4項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1982年8月5日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (行コ) 10 
昭和50年 (行コ) 11 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報1061号120頁/タイムズ487号123頁/労働判例398号57頁
審級関係 上告審/03808/最高一小/昭61.12.18/昭和57年(行ツ)166号
評釈論文 山田省三・労働判例405号21頁/平岩新吾・教育委員会月報391号13頁/野川忍・ジュリスト841号92頁
判決理由  〔年休―年休権の法的性質〕
 (一)労基法三九条一項、二項の要件が充足したときは、労働者は法律上当然に右各条項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うが、(1)労働者がその有する休暇日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、右の指定によって年休が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する、換言すれば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するものであるが、(2)他方、労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するときは、その実質は年休に名を藉りた同盟罷業にほかならないから、その形式いかんにかかわらず、本来の年休権の行使ではないというべきであり、これに対する使用者の時季変更権の行使も不要であると解される(最判昭和四八年三月二日民集二七巻二号一九一頁、同二一〇頁。三・二判決)。従って、いわゆる割休闘争の場合でも、前記業務の正常な運営の阻害を目的として休暇届を提出して職場を放棄・離脱するときは、右(2)の同盟罷業の実質を有する場合と同視してよいと解すべきことになる。
 (中 略)
 以上に認定した通り、北教組指示による要求貫徹集会の目的、年休権行使の規模・実態、本件統一行動参加者である右第一審原告らの年休中における授業についての手当の状況に照らすと、北教組による本件統一行動参加のための三割動員(三割休暇権の行使)の指示は、組合員の集会・デモ行進を目的とする年休権行使の指示であって、業務阻害を目的とした年休権行使、換言すれば年休権行使に名を藉りた同盟罷業にほかならないものとは認めることができず、他にこれを肯定するに足りる証拠はない。
 〔年休―時季変更権〕
 (1)右の「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、当該労働者が所属している事業場を基準として判断すべきであり(三・二判決)、それは、事業場の事業の規模、その内容、当該労働者が担当している業務の内容・それが当該事業場の事業の中で占めている位置・程度、代替性及び代替者配置の難易、業務の繁閑、同時季における年休権行使者の人数、労働慣行等諸般の事情を考慮して、客観的かつ個別的、具体的に判断すべきであると解することができるが、右の場合、次の点が留意されるべきである。即ち、〔1〕まず右にみたように、それは当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものである以上、単に個々の労働者が担当している仕事としての業務の正常であることが阻害されるにとゞまらず(もちろん右業務が即事業場の事業であるとすべき場合はありうる)、当該労働者の所属している事業場の事業の正常であることも阻害される場合において、初めて時季変更権を行使することができると解することになる。けだし、労働者が年休権を行使することにより、その担当業務の正常な運営が、その程度に多少の差があるとしても必然的に阻害されることになるはずであるから、これを理由に時季変更権行使を許すとすれば、労働者の年休権行使を結果的に封ずることになるおそれがあり、この点からも前記のように解することが肯定されなければならない。〔2〕また、労働者は休暇の権利を有しており(憲法二七条二項)、しかも、労基法が休暇の時季決定を第一次的に労働者の意思にかゝらしめていること(三・二判決)に徴すれば、労働者が年休の時季指定をしたときは、使用者において当該時季に代替要員を確保したり、労働者の配置を変更したりして事業の正常な運営を確保するための可能な限りの手だてを講じたにも拘らずなお事業の正常な運営が阻害されると判断されるときは、はじめて時季変更権行使のための客観的要件である「事業の正常な運営を妨げる」事情が存在することになるというべきであって、それらの努力を傾けることなくただ漫然時季変更権を行使することは許されないというべきである。〔3〕そして、右の「妨げる」場合に当るか否かは、使用者にとって、将来の予測の問題なのであるから、時季変更権行使の時点において妨げる蓋然性があれば足りると解され、それありとして時季変更権を行使したところ結果的に事業の正常な運営を阻害しなかった(例えば、時季変更が行使されたにも拘らず労働者が職場を離脱したところ、その後使用者の対策が効を奏したときなど)としても時季変更権が効力を生じないというものではない。