全 情 報

ID番号 01369
事件名 未払賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 白石営林署事件
争点
事案概要  年次有給休暇を請求し勤務につかなかったところこの請求が不承認とされ欠勤扱いにされたため、欠勤分として差引かれた賃金の支払を求めた事例。(一審 認容、二審 控訴棄却)
参照法条 労働基準法39条1項,2項,4項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1966年5月18日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ネ) 76 
裁判結果
出典 高裁民集19巻3号270頁/時報446号12頁/タイムズ193号117頁/訟務月報12巻6号874頁
審級関係 上告審/01341/最高二小/昭48. 3. 2/昭和41年(オ)848号
評釈論文 安屋和人・判例評論95号29頁/花見忠・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕102頁/外尾健一・月刊労働問題100号104頁/窪田隼人・立命館法学66号96頁/秋田成就・季刊労働法61号69頁/藤堂裕・法学研究〔慶応大学〕39巻12号99頁/野村平爾・労働法学研究会報670号1頁
判決理由  〔年休―年休権の法的性質〕
 労基法第三九条第一、二項の要件が充たされた場合には、法の定める労働条件の一として、使用者は一定日数の労働義務を免除し労働者を就労から開放することを国家から一方的に義務づけられるのであり、反面、労働者はそれによって当然一定日数の労働義務を免除され、その日数の就労から開放されるという一種の種類債権を取得することになるのであるから、この権利義務発生のために更に労働義務免除という使用者の意思表示を必要とする余地はない訳である。
 そして、この種類債権は一定日数の労働日が個々に指定されることによってその目的物が特定され、その特定された日が有給休暇日となってその日の労働義務は消滅することになるのであるが、同条第三項が「使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。但し、請求された日に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることが出来る。」と規定しているのは、有給休暇の日を何時に指定するかは労働者を使用して、事業の運営に当る使用者にとっても重大な関心の存するところではあるけれども、前示のとおり、有給休暇の制度は労働者が人たるに値する生活を営むことが出来るように保障することを主たる立法の趣旨とするものであるところから、この趣旨に照して、労働義務の免除される休暇の日はまず労働者の意思に従ってこれを決定させることが最も効果的であるとの見地に基ずき、この指定権を特に労働者に与え、唯、同項但書の事由がある場合に限って使用者は労働者の指定を拒否し別の時季を更に指定するよう労働者の意思を聞くことが出来るものとして、その限度で使用者の利益との調整を図ったものと解すべきであるから、有給休暇が何時取らるべきかは、右但書の事由とこの事由による使用者の拒否の無い限り、労働者の指定によって決定され、その外に更に使用者の承認を得ることは必要でないと言うべきである。
 〔年休―時季変更権〕
 既に述べたように有給休暇請求権の行使というのは休暇となるべき日の指定を意味するのであり、労基法第三九条第三項但書の事由が客観的に存在しない限り、当該指定日の労働義務はこの指定だけによって消滅することになる(即ち休暇日となる。)のであって、本件においては後記のとおり、右但書の事由が認められない場合であるから、もともと使用者が行使すべき時季変更権なるものは存在しないものというべく、従って被控訴人がそのように有給休暇の請求後直ちに退庁してしまったからといって、それが控訴人の言うように時季変更権の行使を妨害するものであるとか、権利の濫用であると言うのは当らない。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―年休利用の自由、一斉休暇闘争〕
 そして、就労から開放される有給休暇日において、労働者がこれを如何なる用途に利用するかは、一般の休日と同様に、もとより労働者の自由であると言うべく、労働者としては有給休暇の請求に際しては単に休暇となるべき日を指定しさえすればそれで十分であって、休暇利用の方法用途まで一々申出る必要はないと解せられるのであるから、このよう休暇の利用目的如何によって、有給休暇の請求自体が本来認められている範囲を逸脱しているとか、逸脱していないとか言うのは当らないのである。
 (中 略)
 従って、控訴人は、被控訴人が本件有給休暇を請求した真の目的は違法な大衆交渉に参加し、この斗争を支援することにあったと主張するけれども、譬えそうだとしても、それは労基法の定める有給休暇請求権の行使とは次元を異にする休暇の使用目的という別異の事項について被控訴人がその責任で決定したまでのものというべく、有給休暇請求権の行使としてはなお依然として法によって与えられた正当な権利行使の範囲内にあると認むべきものであるから、その行為が労基法以外の分野において懲戒若くは刑罰等の対象として問擬される場合のあることは格別、これをもって信義則に反するとか、有給休暇請求権の行使として本来認められている範囲を逸脱したものであるとか、権利の濫用であるというのは当らない。