全 情 報

ID番号 01393
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 弘前電報電話局事件
争点
事案概要  年休の時季指定を行った電々公社職員が、成田空港反対闘争参加に関わる年休の付与は慎重に行うようにとの指示に従った課長により時季変更権を行使されたが、当日欠勤したため戒告処分と賃金カットを受けたのに対し、右年休取得は適法であったとして戒告処分の無効確認、未払賃金の支払等求めた事件の控訴審。(控訴認容、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 違法行為への参加
裁判年月日 1984年3月16日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 123 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報1131号145頁/タイムズ544号226頁/労働判例427号29頁/訟務月報30巻8号1383頁/労経速報1229号3頁
審級関係 差戻控訴審/03109/仙台高/昭62.12.14/昭和62年(ネ)335号
評釈論文 阿部則之・昭和59年行政関係判例解説185頁/安枝英のぶ・季刊実務民事法8号214頁/小嶌典明・昭和59年度重要判例解説〔ジュリスト838号〕216頁/中嶋士元也・ジュリスト859号145頁
判決理由  〔年休―時季変更権、年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 勤務割を定めることが使用者の専権に属するのは明らかであり、これを変更するのも同様である。従って勤務割の変更は使用者の義務ではない。もとより、年休制度を実効的なものにするために協力、配慮すべき一般的な義務が使用者にあるのは当然であるから、合理的な理由なしに恣意的に勤務割の変更をなさず、その結果事業の正常な運営が妨げられるとして時季変更権を行使するのは権利の濫用に該当するということができるが、勤務割の変更をしないことに合理的な理由がある場合にはその結果として事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使は有効であると解すべきである。
 右の理を本件について見るに、過激な違法行動や通信妨害行為が反復され控訴人公社の職員五名が逮捕されるなどした「成田闘争」に関し控訴人公社の職員管理のあり方に国会や世論の厳しい批判が浴びせられ、公務員及び公共企業体職員らが右闘争をめぐる違法な活動に参加することのないよう職員の管理監督を求める内閣官房長官からの通達(昭和五三年五月一一日付内閣閣第八六号)と、これに基づき控訴人公社の副総裁、東北電気通信局長から職員の服務規律の厳正化についての指示がなされていた情況下において、かねてより過激派に同調する言動をしていた被控訴人が「一〇〇日闘争」の最終日の集会に参加するために本件の年休時季指定をしたのである。被控訴人が違法行動に加わり、或いはこれに捲込まれることになれば、ただに被控訴人個人の刑事上、民事上の責任問題が生ずるのみならず、公共企業体たる控訴人公社が国民・公共に対する責務を懈怠したとして問責されるのは必至である。被控訴人について右の可能性が高かったのは明らかであるから、たまたま時季指定された日が最低人員配置を要する日曜日であった関係上、勤務割の変更、代替勤務者の補充をしないで業務の支障を理由に時季変更権を行使して被控訴人に就労を命ずることができ、さすれば同人が違法行為に加わるのを未然に防ぐことができると考えてした控訴人・X課長の一連の措置には前記の合理的な理由があるとするのが相当である。
 (中 略)
 このように、被控訴人からの本件年休時季指定に対応して勤務割の変更をしなかった控訴人の措置は是認することができる。その結果労使間の協議に基づく最低配置人員を欠くことになるわけであるから、業務の正常な運営が妨げられることを理由に時季変更権を行使したのは適法であり、右行使の時機、方法にも特に問題はなく、権利の濫用ともいえないので、右指定に基づく年次休暇は結局成立しなかったことになる。従って、昭和五三年九月一七日の無断欠勤等を理由に控訴人公社職員就業規則五条一項、五九条三号、同条一八号に基づき被控訴人に対してなされた本件の戒告処分及び賃金カットは適法、有効であり、裁量の誤りもない。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―違法行為への参加〕
 年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきであるから、被控訴人が成田空港開港に反対する集会に参加するために本件年休の時季指定をしたことは当事者間に争いはないが、そうであるからといって右時季指定が権利の濫用に該当し所期の効果を発生せしめないということはできない。