全 情 報

ID番号 01398
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本電々事件
争点
事案概要  年休請求に対し時季変更権が行使されたにもかかわらず欠勤したとして戒告処分に付された原告らが、右処分の無効確認とカットされた賃金及びこれと同額の附加金さらに慰藉料及び弁護士費用の支払を求めた事例(一部認容)。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1985年12月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 11591 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集36巻6号733頁/時報1179号130頁/タイムズ597号38頁/労働判例466号46頁/訟務月報32巻9号2061頁
審級関係 控訴審/03079/東京高/昭62. 8. 6/昭和60年(ネ)3628号
評釈論文 野間賢・季刊労働法139号177~180頁1986年4月
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 2 被告は、この点につき、第一整備課では従来そのような勤務割の変更による代替勤務者の確保という方法が採られたことはなかったと主張する。なるほど、従前の管理者による代替という方法は、それが可能な場合には、年休請求者の年休の取得を妨げず、かつ、他の一般職員にも何らの影響を及ぼさないから、服務管理上も相応の合理性をもつものということができる。しかし、そうであるからといって、管理者による代替が不可能な場合についても、従前に例がないというだけの理由で勤務割の変更という方法を考慮する必要がないかは、おのずから別の問題である。
 もとより、勤務割の変更は使用者の権限に属する事項であって使用者の義務ではないが、年休の取得を認めると最低配置人員を欠くに至る場合には、年休制度を実効性のあるものとするため、使用者としては、勤務割の変更により代替勤務者を確保するよう努力すべきであり、そのような努力をしても代替勤務者を確保することができなかったときに、はじめて時季変更権の行使をすることができるものと解するのが相当である。このように解しないと、最低必要人員しか配置されない日に勤務割の指定を受けた者は、年休を取得することができなくなってしまうからである。
 3 ところで、勤務割の変更により代替勤務者を確保することは、代替勤務者にとっては、本来勤務を要しない日に予定を変更して勤務を命じられることを意味するのであるから、使用者が無条件に代替勤務を命じ得るものでないことは当然である。
 (中略)
 このように、就業規則上、勤務割の変更又は週休日の変更は業務上の必要又はやむを得ない業務上の理由があるときに命じ得るものであるが、これは被告公社が一方的に変更を命じる場合の要件であって、変更を命じられる本人の同意があれば、右のような要件の存在は不要であると解することができる。したがって、使用者が代替勤務者を確保するよう努力するに当たっては、まず、代替勤務をする能力や資格を有し、かつ、代替勤務に同意をする者がいるか否かを検討し、そのような者がいない場合には、次いで年休請求者及び代替勤務候補者双方の事情を十分斟酌した上、代替勤務を命じるのか又は年休の時季変更権を行使すべきかを検討しなければならないものと解するのが相当である。
 (中略)
 そして、被告公社が負う代替勤務者を確保するよう努力すべき義務の内容について考えると、電力課では、二名の最低人員の配置しか予定していない場合に一人がやむを得ない事情等により勤務を欠くに至るときは、他の職員の同意を得た上、その勤務割を変更して代替勤務に充てることにより欠務を補充してきたこと、また、電力課においては変則的な二四時間勤務体制をとり、具体的な勤務の態様はあらかじめ定められた勤務割により決定されているところ、勤務割を変更することは多かれ少なかれ変更を受ける職員に負担をかけるものであるし、殊に週休日は職員に対し就労の免除を約束したものとして、その変更は安易に行うべきものではないことを考え合わせると、年休制度を実効あらしめるための義務としての勤務割の変更も、年休請求者に他の者の勤務割を一方的に変更してでも年休を取得させるべき特段の事情が認められない限り、その変更を受けるべき者の同意を得た限りにおいて行えば足りるというべきである。
 更に、電力課においては、宿直宿明勤務を終えた翌日は週休とすること、また、二名の最低人員を配置するときの一名は少なくとも二年程度の電力課業務の経験を有する者を充てることという勤務割の方針があり、これは服務管理上あるいは業務運営上必要な配慮に基づく合理的な措置ということができるから、原告Xがこのような方針をまげてまで自らが年休を必要とするだけのやむを得ない理由を進んで明らかにするのでない限り、被告公社の勤務割変更もその方針の範囲内で行えば足りるものといわなければならない(このことは、年休の時季指定につき年休の利用目的を明らかにすることを一般的に要求するものではないが、既に定められた他の者の勤務割を変更してまで年休を取得しようとする場合には、それ相当の理由が存在することを明らかにする必要があるということである。)。
 (中略)
 そして、仮に被告公社に原告Xを成田空港の開港に反対する集会に参加させないという意図が潜在していたとしても、時季変更権行使の要件が客観的に認められる以上、その行使が違法なものとなるわけではない。