全 情 報

ID番号 01447
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 日本シェーリング事件
争点
事案概要  「賃上げは稼動率八〇パーセント以上のものとする」旨の労使間協定に従い昇給等なされなかった従業員らが、会社は年休、生休、産休、労災による休業、争議・団交による欠勤等を右稼働率の算定につき欠勤として算入することは許さないとして、右取扱いによらないでした稼働率算定に基づく賃上げ額の支払等求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法39条,65条,67条,68条
民法90条
体系項目 年休(民事) / 年休取得と不利益取扱い
裁判年月日 1983年4月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ワ) 9492 
昭和57年 (ワ) 9125 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例410号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由  以上の通り、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得することは、労基法三九条、六七条、六五条、六六条により労働者に認められた権利であるから、使用者は、労働者が右権利を行使して年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得して就労をしなかったことを理由に不利益な取扱いをしてはならないし、さらに使用者は、労働災害による休業及び通院による不就労についても、労基法七五条、七六条、七七条、一九条、三九条(五項)等の規定の趣旨に照らし、右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならず、さらに、ストライキや団体交渉による不就労についても憲法二八条、労組法七条の規定により右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならないというべく、(中 略)。
 このことは、右不利益を受けるにつき労働者の包括的な承諾があった場合も同様に解すべきである。けだし、右労基法等で保障された権利行使を理由に不利益な取扱いを承諾することは、強行法規である右労基法等が右権利を保証した趣旨に反することになるし、また、現実にも労働者にその権利行使を抑制させる結果を招くことになるからである。
 ところで、本件八〇パーセント条項は、前記の通り年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキや団体交渉等による不就労を、稼働率を算出するための不就労時間に算入し、その不就労時間と他の不就労時間とを合わせた合計が、全労働時間の二〇パーセントを超えるときには、賃金引上げの対象から除外する旨定めたものであるから、本件八〇パーセント条項は、結局、前記労基法その他の法律上認められた年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとり、労働災害による休業及び通院をし、ストライキや団体交渉等をしたことを理由にした不利益な取扱いを定めたものというべきであるしまた、右条項は、労働者をして、爾後右各権利行使による休暇を取得し、休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をすることを抑制する機能を有しているものというべきである。
 従って、本件八〇パーセント条項は、強行法規である労基法三九条、六七条、六五条、六六条、七五条、七六条、七七条、一九条、憲法二八条、労組法七条等の各規定ないしその規定の趣旨に違反し、ひいては民法九〇条の公序良俗に反するものというべきであるから、当然無効というべきである。