全 情 報

ID番号 01541
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 慈雲堂病院事件
争点
事案概要  雇用後六ケ月間従事する見習の業務期間中、従業員として不適当であると判断された看護婦が地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条,90条,106条
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
就業規則(民事) / 就業規則の届出
就業規則(民事) / 就業規則の周知
就業規則(民事) / 就業規則の承継
裁判年月日 1962年3月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 5305 
裁判結果
出典 労働民例集13巻2号212頁/タイムズ130号73頁
審級関係
評釈論文 後藤清・法律時報35巻7号87頁
判決理由  労働基準法の規定するところによれば、使用者は、就業規則の作成について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならず、その作成した就業規則を行政官庁に届出るべく、この場合には、上述のような労働組合又は労働者を代表する者の意見を記した書面を添附すべきものとされていると共に、その就業規則を常時各作業場の見易い場所に掲示し又は備付ける等の方法によって、労働者に周知させる義務を課せられ、右に挙げたような意見の聴取、届出又は周知に関する義務に違反したときは処罰されることになっている(同法第九〇条、第八九条、第一〇六条及び第一二〇条)。しかるに被申請人が右に説明したような就業規則の作成及び実施に関する各般の手続を行なったことについては、申請人より何ら主張立証されるところがなく、かえって証人A及び同Bの各証言からすると、被申請人による右のような手続履践の事実はなかったことが知り得られるのである。しかしながら就業規則の作成及び施行について使用者が前叙のような手続を経ることを怠った場合においても、当該就業規則の効力はそのために左右されるものではなく、ただ単に罰則の適用問題が生ずるに過ぎないものと解すべきである。
 申請人が被申請人の作成にかかるものであると主張する就業規則がもと個人経営であったC病院における労働関係を規律するためのものとして制定、施行されていたものであり、その中に申請人の主張するような「看護婦、看護人の未経験者は、有資格三ケ月(中略)間の講習又は見習期間を経なければならない。」との第七条の規定があることは、当事者間に争いがない。ところで被申請人が、申請人の主張するように、個人経営にかかるC病院の業務を承継したことを認め得る疎明はないのみならず、個人経営時代における前記病院の従業員に対する処置としては、証人A及び同Bの各証言によると、昭和三〇年一〇月中に退職金を支給して全員を一旦退職させた上で改めて被申請人においてこれを雇入れたものであることが認められる。してみると、法理上被申請人が個人経営のC病院の業務を従前の労働関係をも含めて承継したものと解すべき根拠は見出されないけれども、社会的ないし経済的に観察する限り、被申請人による病院経営とそれまで個人によってなされて来たC病院の経営との間には、事実上の継続があったものと認めるのが相当である。このような情況にかんがみるときは、C病院が個人によって経営されていた当時に、その経営者の作成した就業規則がそのまま被申請人の作成にかかる就業規則として、その従業員との間の労働関係について適用されることになったことも、事情によっては考えられないわけではない。