全 情 報

ID番号 01552
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 三井鉱山事件
争点
事案概要  就業規則所定の届出のない在籍専従等による欠勤が労働協約所定の懲戒解雇事由にあたるとして懲戒解雇された従業員が、右在籍専従等については組合が協約所定の届出を行っており無断欠勤にはあたらず解雇は無効である等として地位保全を求めた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の届出
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1970年3月25日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 301 
裁判結果
出典 タイムズ247号258頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔就業規則―就業規則の届出〕
 組合の届出義務を定めた協約六四条乃至六八条、六九条と従業員個人の届出義務を定めた就業規則四一条との関係であるが、後者が個別的労働関係を律するものであるのに反し、前者は、前示のように個別的労働関係とも関連を有するとはいえ、直接には組合と会社間のいわゆる集団的労働関係の処理のために適用されるものとして、労働組合法一六条にいう「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」、即ち規範的部分には属しないから、それぞれ適用の場を異にし、その点で両者は矛盾、抵触するものではなく、また内容自体前者が後者の適用を当然に排除しているものともみられない。
 しかし、両者は、既述の如く、その趣旨において殆んど重複するものであるうえ、後者の従業員個人の届出義務といったところで、必ず本人がなさねばならず、第三者が本人の依頼で本人に代って本人のためになすことを許さないわけのものでもなく、さらに前者の組合の届出義務といったところでその届出には、通常、組合員たる従業員本人のために本人に代わって届出をなす意思も含まれていると見るべきであるので組合が前者に準拠して事前に会社宛マル組届出乃至罷役扱いの通知をした場合、たとえそれが就業規則所定の様式に従った所属長宛の届出でないとしても、組合用務による欠勤或いは組合業務に専従することを命ぜられた組合員たる従業員個人が、就業規則に則って、重ねて会社宛事前届出をなさねばならない格別の必要性は考えられない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務懈怠・欠勤〕
 労働協約一二条の無断欠勤により該当者を解雇するには、同条が既述の如く懲戒解雇の規定であることから、その前提として該当者に非難可能性、即ち懲戒処分しかも最も重い懲戒解雇に値するものとして、企業秩序の維持のうえで同人を企業外に排除しなければならないほどの非難可能性の存することが必要と解される。
 (中 略)
 申請人は、昭和三七年一一月一三日以降本件解雇の意思表示がなされるまで、組合の臨時部員としての罷役の取扱いを受くべき地位にあったものであり、組合から会社宛にその旨の通知もなされていたのであるから、その間の欠勤が前記懲戒解雇事由たる無断欠勤に該当しないことは明らかである。
 (中 略)
 次に、昭和三七年九月一日から同年一一月一二日までの欠勤についてであるが、これが一応形式的には協約一二条の事前届出を欠く欠勤に当たること前示のとおりであるから、それが懲戒解雇に値するものであるか、すなわち申請人に対する前示非難可能性の有無を検討する。
 (中 略)
 申請人は右届出をなすべき当時、水俣市に滞留し、組合にマル組届出を依頼していたため、当然組合よりその旨の届出がなされているものと信じており、まず故意に届出をなさず欠勤したものでないということができる。
 (中 略)
 その気になれば組合のマル組届出が依頼したとおりなされているか極めて容易に調査できたのであるから、その点申請人に何ほどかの過失は否定できないといえよう。
 (中 略)
 しかし、申請人の過失が右の程度にとどまるとするならば、もともと懲戒事由としての無断欠勤は、欠勤日数の長短もさることながら、届出をしないで、もしくは届出をしていないことを知って、故意に欠勤した点に非難さるべきものがあり、或いは高度の蓋然性をもって右届出の懈怠を知り得た場合など、いわゆる重大な過失に基づく場合これに準ずるとしても、申請人の右過失程度では未だ懲戒解雇に値する非難可能性がないというべきである。