全 情 報

ID番号 01623
事件名 文書提出命令申立事件
いわゆる事件名 丸互タクシー事件
争点
事案概要  原告労働者らの賃金台帳の提出命令を申立てた事例。(申立認容)
参照法条 労働基準法108条
民事訴訟法(平成8年改正前)312条
体系項目 雑則(民事) / 賃金台帳
裁判年月日 1972年11月30日
裁判所名 大分地
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (モ) 339 
裁判結果 認容
出典 労働民例集24巻1・2合併号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由  賃金台帳は労働基準法一〇八条により使用者が記入、保存を義務づけられているものであり、同法施行規則五四条によりこれには賃金計算期間、労働日数、労働時間数、延長、休日、深夜労働時間数、基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額などを記入すべきものと定められており、被告の所持する賃金台帳にもその記載があるものと推認される。
 本件では原告らと被告との間には雇傭関係の存することに争がなく、原告らの賃金請求権の限度額に争があるところ、その請求の基礎となる労働時間、手当額などは法の要求するところにより賃金台帳に記載のあるところであるから、賃金台帳は原被告間の賃金請求権の「法律関係ニ付キ作成セラレタル」文書に該ると言うべきである。被告は賃金台帳は原被告間の法律関係について作成されたものではないと主張するが、民訴法三一二条三号後段の「法律関係ニ付キ作成セラレタ」文書とは、その文書により直接その法律関係を立証できる契約書などの文書に限られず、その法律関係の要件たる事実に関して作成された文書をも含むものと解される。もつとも、そのような文書であっても作成者自身のみの便宜のために作成せられた文書、例えば日記など、は含まれないと解されるが、賃金台帳は後述のように労働者の利益や行政上の監督のためにも作成されるものと認められるから、賃金台帳は被告のみの便宜のために作成された文書とはいえない。
 更に、賃金台帳が法により作成、保管を義務づけられているのは、労働賃金関係に関する証拠を明らかにして賃金関係の紛争を予防することにより労働関係当事者の利益を護ろうとする目的を有していると解されるし、かつ、これら賃金台帳は労働基準監督官の求めに応じて提出せねばならない(労働基準法一〇一条一項)とされているのも同法の目的とする労働者の保護を達するためであると解せられることを考慮すると、賃金台帳は民訴法三一二条三号前段の労働者たる「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラ」れた文書にも該当するというべきである。