全 情 報

ID番号 01788
事件名 従業員地位保全仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 四国電気工事事件
争点
事案概要  勤務時間外に同僚と喧嘩をして刑事処分を受けた従業員が懲戒解雇されたので従業員としての地位保全等を申請した事例。(原審 申請一部認容)
参照法条 労働基準法20条3項,89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1974年3月5日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 60 
裁判結果 取消却下(確定)
出典 労働民例集25巻1・2合併号85頁/時報743号106頁/タイムズ308号212頁
審級関係 一審/松山地/昭48. 2. 1/昭和43年(ヨ)323号
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務外非行〕
 右事実関係によれば、被控訴人の行為は勤務時間外に行われた他の従業員との喧嘩ではあるが、翌日の勤務に備えて待機するため従業員が集団的に宿泊している部外の旅館に赴き、夜半、兇器を用いて従業員に突きかかったもので、場合によっては重大な結果の生ずるおそれのある危険性の高い非行である。そして電気工事の施行等控訴人の事業が会社外において行われるものである性格上、従業員同士の喧嘩等の非行が、例え職場外のものであっても控訴人の信用、体面に関わる場合が多いというべきところ、上記認定のような状況における被控訴人の所為は控訴人の体面を著しく汚した行為であることは勿論であるし、他面職場秩序をも乱すことの甚だしい、特に不都合の行為と証価されてもやむを得ない所為と思料されるので、就業規則第七五条第三号および第五号の懲戒事由に該当するものと解することができる。
 ところで、非行の情状については、被控訴人の右非行は喧嘩の相手方であるAが先に被控訴人を殴打したことに発端したものであること、人身傷害の結果が生じなかったこと、被控訴人が非行後間もなくから反省を加えていること(《証拠略》により疏明される。)、検察官に自首し、刑事処分を受けたこと、相手方のAが前記殴打暴行の非行につき、戒告書の交付を受け注意処分を受けたこと(《証拠略》により疏明される。)等の被控訴人に有利な情状はあるが、右非行は喧嘩の現場において興奮の余りにした挙措とは趣きを異にし、一旦喧嘩がおさまった後に計画的に自宅から包丁を持ち出して行ったものであり、その方法、態様と併せて情状は重いといわざるを得ない。
 (中 略)
 《証拠略》によると、控訴人は、前に類似の事例につき懲戒解雇処分に付した実例がなかったところから、本件非行について被控訴人を依願退職(就業規則第七六条第五号の諭旨解雇(譴責した上で退職願を提出させる。)に当るものと解される。)の扱いをしようとし、その旨を被控訴人に勧告したが、結局被控訴人が承服しなかったので、本件の懲戒解雇となったものであることが疏明される。
 そうすると、以上の諸点を総合して評価すれば、被控訴人に就業規則第七五条第三号および第五号の懲戒事由に該当する非行があり、その情状が重いものとして懲戒解雇に当るとしたことは社会通念に照し、いまだ著しく妥当性を欠くものとはいえない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕
 右就業規則の規定を要約すれば、懲戒解雇は「行政官庁の認定を受け、解雇予告手当を支給しないで、即時解雇する。」という趣旨に解される。
 ところで、懲戒解雇に関し、一般に就業規則に右のような規定がある場合、行政官庁の認定を受けることが懲戒解雇の効力要件として、その認定を受けない限り懲戒解雇を行うことができないものと解すべきかどうかは見解の分れるところである。
 就業規則がそれに定められた労働条件や労働者の分限、懲戒等につき使用者の恣意を抑制して労働者の権利を保護する機能をもつことや、就業規則の歴史的沿革等にかんがみ、就業規則の規定はこれを労働者を保護する方向に解釈すべきものとし、前記のような規定は使用者の有する懲戒解雇の権能を自律的に制限しその権能の行使を行政官庁の認定にかからせることにしたものとして、その認定を受けることをもって懲戒解雇の効力要件と解する立場も有力である。
 しかし、就業規則が労働者を保護する面の機能を営むことは確かであるが、前記のような就業規則の定めが使用者の懲戒解雇権を自律的に制限した趣旨(そのような自律的制限はもとより可能である。)と解するには、単に労働者保護の見地を優先させて解釈するというのにとどまらず、就業規則の当該規定の文言、規則制定の経緯、規定運用の慣行等の事情をも考慮して、規定の文言にもられた意思解釈として自律的制限の趣旨が認められることが必要であると解される。
 ところで、前記就業規則所定の行政官庁の認定は労働基準法二〇条三項の労働基準監督署長の除外認定を指すものであり、それは解雇予告手当を支給しないで即時解雇することのできる同条一項但書の事由があることにつき、行政監督上の確認を受けることを意味するにとどまり(使用者はこの認定制度により控制を受け、即時解雇に当って恣意的に解雇予告手当の支払を免れることができなくなる。)、それ以上に懲戒解雇事由の存否や懲戒解雇の相当性の有無の確認を受けることの趣旨までを含むものではあり得ない(行政官庁にはそのような確認行為をなすべき権限が与えられていない。)。
 そして、右就業規則においては、懲戒解雇は解雇予告手当を支給しないで即時解雇することとされている(同規則第五二条但書、第五号)のであるから、労働基準法二〇条一項但書、三項により当然に行政官庁の除外認定を受けるための手続をふむ必要があるのである。
 そうすると、同規則七六条第六号は、このような行政官庁の除外認定を受けるべき公法上の義務を就業規則上明示したものと解されるのであり、右規定の文言からは懲戒解雇権を、行政官庁の除外認定にかからせることとして自律的に制限した趣旨を当然に導き出すことはできない(もし、自律的に制限した趣旨ならばその趣旨が明らかに理解できるような立言をするのが通常と思われる。)。
 (中 略)
 以上のとおりであって、前記就業規則に定める行政官庁の除外認定は、使用者の懲戒解雇権を自律的に制限したものとは解し難く、解雇予告手当を支給しないで即時解雇することにつき、労働基準法二〇条一項但書、三項所定の行政官庁の認定を受けるべきことを明らかにした趣旨と解されるから、解雇の理由が同条項但書に該当する限り(本件懲戒解雇の理由とされているところは、就業規則第七五条第三号および第五号であり、右規定の内容は労働者の責に帰すべき性質のものであること後述のとおりである。)行政官庁の除外認定が受けられなくても、解雇は有効であり、除外認定の有無は本件懲戒解雇の効力に直接のかかわりをもたないというべきである。