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ID番号 01822
事件名 懲戒処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 山口県教育委員会事件
争点
事案概要  全国中学学力調査の実施に反対して、授業中生徒に受験拒否を教唆し、勤務時間中に校長に対して学力調査実施の職務命令の撤回を求めて担当の授業を行わない、等の一連の服務上の義務違反があったとして市立中学校教諭に対してなされた懲戒免職および懲戒停職の取消が求められた事例。(原判決一部取消、一部控訴棄却、請求一部認容)
参照法条 地方公務員法29条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1977年10月7日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (行コ) 3 
裁判結果 一部取消 一部棄却
出典 行裁例集28巻10号1055頁/時報871号92頁/タイムズ369号319頁
審級関係 一審/山口地/昭48. 3.29/昭和40年(行ウ)7号
評釈論文 市川須美子・教育判例百選<二版>〔別冊ジュリスト64号〕200頁
判決理由  地方公務員に対する懲戒処分としては、戒告、減給、停職及び免職が規定されており、その種類、程度の決定は処分権者の裁量に任されているが、懲戒処分が、被処分者の当該処分事由たる行為の内容、程度その他諸般の事情を考慮して社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の範囲を超えたものとして違法となるものと言わなければならない。以下、本件各被控訴人の懲戒処分について検討する。
 一、被控訴人Y1を除くその余の被控訴人に対する本件懲戒処分について
 (一)、右被控訴人らが、生徒の本件学力調査の受験拒否を教唆扇動したものでないことは前認定のとおりである。しかしながら、同被控訴人らの一連の職務上の義務違反行為が、かねて本件学力調査に疑問を抱いていた一部の生徒に受験拒否の直接行動に踏み切る原因を与えたこともまた前認定のとおりである。そして、その結果は、学園に異常な混乱を招き、学校及び教育委員会の関係者に多大の心痛を与え、かつ、生徒の父兄を始め地域住民にも甚大な衝撃を与え、その社会に及ぼした影響は重大であったといわなければならない。
 (二)、しかしながら、このような事態を招いた責任がすべて右被控訴人らにあると速断するのも相当でない。まず、昭和三九年六月二〇日及び同月二二日の両日、漫然右被控訴人らを中心とする組合員らとの団体交渉に応じ、あるいは、さしたる結論の得られそうにもない職員会議を長時間にわたって継続し、本件学力調査前の二日間にわたって多数の生徒に終日自習することを余儀なくさせ、更に、本件学力調査当日である同月二三日及び二四日の両日職員朝礼を長びかして学力調査開始時刻を遅延させるに至ったA校長にも管理者としての決断に欠け、混乱の責任があることを否定し得ない。又、控訴代理人が指摘するように厚南中学校を「組合管理」ともいうべき状態(昭和四八年九月二七日付準備書面三の(二))に置いてなす術のなかった宇部市教委及び控訴人には責任が果して無かったであろうか。次に、昭和三六年の闘争以来被控訴人らに同調し協力した厚南中学校の多数教職員(主として組合員)にも相当の責任のあることを指摘してよいであろう。
 (三)、被控訴人Y2については、前記認定諸事実に徴し次のとおり認められる。同被控訴人は、厚南中学校組合員中の先輩として重きをなしていたが、本件学力調査当時、同中学校組合幹部の主流は既に同被控訴人より若い年代に属する被控訴人Y3、同Y4及び同Y5らに移り、被控訴人Y2は必ずしもこれら三名の者よりも主導的立場で行動したものではなく、又、同月二〇日には欠勤して当日の行動には参加していない。
 (四)、被控訴人Y3は、同月二二日には欠勤して当日の行動には参加していないが、そのほかの日における義務違反の行動に際してはかなり主導的に行動している。そして、同被控訴人のその余の処分事由と併せ考えると、同被控訴人が組合運動に熱中する余り規則を無視し奔放な行動をとっていたことが看取される。しかしながら、同被控訴人の当時の年齢(昭和三九年当時二六歳位)に徴すれば、しゃく量の余地が全然無い訳ではなく、更に、同被控訴人には、前記昭和三九年五月六日付の訓告処分を除き、これまで処分歴もない。
 (五)、以上(一)ないし(四)の諸事実を総合し、かつ、免職処分が被処分者に重大な結果を与えるものであることにかんがみると、被控訴人Y2及び同Y3に対する本件免職処分は、控訴人主張の諸事情(当裁判所が考慮するのを相当と認めたものに限る。)を考慮しても余りに過酷に失し、社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、むしろ相当長期の停職処分をもって臨むべきものと思料されるから、裁量の範囲を超えたものとして違法というべきである。
 (六)、しかしながら、被控訴人Y4及び同Y5に対する本件停職処分は、同被控訴人らの違法行為の内容、程度及びその他の諸事情を考慮するときは、裁量の範囲を超え取り消さねばならぬ程に重いとはいえない。
 二、被控訴人Y1に対する本件懲戒処分について
 (一)、同被控訴人は、生徒に対し本件学力調査受験拒否を意図的に教唆扇動したものではないが、同被控訴人が生徒に対する事後指導の職務命令を拒否したこと、その日記指導の内容が誤っていたこと及び本件学力調査受験の事前指導を怠ったことは、いずれも前説示のとおりである。それ故、右各事由に、同被控訴人の言動が生徒の受験拒否の一原因をなしたこと、その他前認定の諸事情を考慮すれば、同被控訴人の責任は決して軽しとなし得ない。
 (二)、しかしながら、他方、(イ)、安下庄中学校の場合、生徒の受験拒否による混乱も厚南中学校の場合に比較して軽度のものであったこと、(ロ)、日記指導にしても逆に生徒から同被控訴人に対する批判もかなりなされており、実害として見るべきものも表われていないこと、(ハ)、同被控訴人にこれまで懲戒処分歴のないこと、(ニ)、免職処分が被処分者に重大な結果を与えるものであること、の諸点を考慮すれば、同被控訴人に対しても相当長期の停職処分をもって相当とし、免職処分をもって臨むことは極めて過酷であって、裁量の範囲を超えた違法があると言うべきである。
 三、結局、被控訴人らに対する本件懲戒処分のうち、被控訴人Y4及び同Y5に対する各停職処分は相当として維持さるべきであるが、被控訴人Y2、同Y3及び同Y1に対する各免職処分は違法として取消しを免れない。