全 情 報

ID番号 01843
事件名 地位保全仮処分申請控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 聖路加国際病院事件
争点
事案概要  ビラ・雑誌記事の内容が使用者の名誉・信用を汚損するとしてなされた懲戒解雇につき、組合の情宣活動としてなされ、その内容が真実である等として、右解雇の無効、地位の保全を求めた仮処分事件。(控訴棄却)
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1979年1月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 328 
昭和52年 (ネ) 190 
裁判結果 棄却
出典 労働判例313号34頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト716号114頁
判決理由  本件ビラ及び本件論評には、前示のとおり不十分、不正確な記載及び事実にそぐわない記載が存し、被控訴人において殊更に事実を歪曲したものとは認められないとしても、これらに基づく評価の点においては、誇張、中傷、誹謗にわたる不穏当な表現もあって公正な評価と認められない点のあることは明らかである。
 (中 略)
 被控訴人の右の行為は、控訴人病院の信用、名誉を汚損する不法なものというべきであって、しかも、前叙事実に徴すると、少くとも被控訴人の重大な過失によるものということができる。
 しかしながら、本件ビラは、被控訴人が組合分会長として、看護婦の一人夜勤等労働条件の改善に関する団体交渉中、控訴人側から看護婦の一人夜勤について「危険な状態があったら具体的に示して貰いたい。」旨の発言に基づき、被控訴人がその後経験した分娩室における夜勤の実態を具体的に記載して団体交渉の申入れをしたが、右の問題を控訴人病院における他の従業員に訴えて、理解と組合運動についての支持を求めるため、右申入書記載の内容をそのまま転載し、これを従来と全く同じ方法で配付したものであり、また、本件論評は、被控訴人が雑誌「現代看護」の編集者からAらに対する控訴人の不当労働行為についての執筆依頼を受けたので、組合運動の一環として、右の問題を広く読者に訴えて、その理解と支持を求めようと考え、組合分会で討議してその承認を受け、控訴人病院における勤務及び右Aに対する救済命令申立事件を通じて見聞した看護婦及び医師の研修制度の欠陥ないし問題点を指摘し、これとの関連において生じた不当労働行為を排除するため、組合分会がこれについて行ってきた交渉などについて記載し、投稿したものである。
 そうすると、被控訴人の本件ビラの作成、無許可の配付及び本件論評の投稿は、控訴人の信用、名誉を汚損するものではあるが、その動機、目的、ビラの配付方法などを勘案すると、情状酌量すべき余地があるから、被控訴人に対し控訴人の就業規則第六一条但書を適用するのは格別、同条本文(同条第四号、第二四条第八号並びに第六一条第七号)を適用したのは、裁量権の行使を誤ったものと認めるのが相当である。従って、被控訴人の前示所為が懲戒解雇事由に該当するとした控訴人の本件解雇の意思表示は、被控訴人の主張について判断するまでもなく、その効力を生じないものというべきである。
 (注・就業規則第六一条には、「従業員が右の各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処する。但し、情状により前条に準ずる懲戒(譴責、または出勤停止処分を指す。)に止めることがある。」と規定し、その第四号において、「本就業規則に定める事項に故意に違反したとき。」と定め、次いでその第七号において、「故意又は重大な過失により病院の信用・名誉を汚損する行為のあったとき。」と定め、さらに同規則第二四条において「従業員は、左の各号を守らなければならない。」と規定し、その第八号において「従業員は、病院構内に於て印刷物の配付、貼紙、掲示、放送、宣伝、演説、集会その他、これに類似する行為をしようとするときは、予め庶務課長に届出て許可を受けなければならない。」と定めている。)