全 情 報

ID番号 01894
事件名 地位存在確認等請求事件
いわゆる事件名 海老津タクシー事件
争点
事案概要  勤務時間中二度にわたり会社に無断で車輌を放置しソフトボールをしていたタクシー運転手が、過去の非違行為による処分歴をあわせ考慮されて懲戒解雇されたのに対し、右懲戒解雇の無効を主張して地位存在確認等求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1983年1月25日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ワ) 781 
裁判結果 認容
出典 時報1072号147頁/タイムズ497号151頁
審級関係
評釈論文
判決理由  タクシー乗務員の服務規律については、工場労働者と異なり、経営者が乗務員をその手許において監督できないため、乗務員も心掛け次第ではとかく自由怠惰な服務態度に陥る可能性があり、しかも乗務員の服務態度如何は直接運収に影響を及ぼし、その職場離脱行為はタクシー経営に深刻で致命的な打撃を与えかねない、というタクシー営業の特殊性を考慮し、且つこの種職場離脱行為の証拠蒐集の困難さと原告の否認の態様及び前示二(二)項の同種前歴の存在に前示二(一)項の非違行為等諸般の事情を総合的に考え併せれば、原告のソフトボールの所為は、タクシー乗務員としてあるまじき被告に対する不信行為であり、再三に亘り故意に業務能率を低下させたばかりか、許可なく会社の車輛を放置したとして就業規則八四条一七号、二三号に該当し、懲戒解雇処分に付されても止むをえないとする見方が或はありうるかもしれない。しかしながら、当裁判所は原告のソフトボールの所為の回数、態様、職場離脱の時間等を仔細に勘案した上懲戒解雇処分が労働者に与える影響の重大さを思い、原告の反省と被告の今一度の宥恕を期待して、この際被告の懲戒解雇処分をなお若干重きにすぎるものと判断した。
 右は即ち、原告に対してなされた被告の本件解雇の意思表示が就業規則の適用を誤り、懲戒解雇権を発動すべからざる場合に発動したことに帰着するものであって、その余の争点につき判断するまでもなく、当該意思表示は無効といわなければならない。