全 情 報

ID番号 01898
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 甲山福祉センター事件
争点
事案概要  腰痛症を理由に宵夜勤務を拒否したことを理由に譴責、出勤停止処分を受けた重症心身障害児施設保母が、なんら反省の態度をみせないとして懲戒解雇されたのに対し、右解雇は理由がないとして従業員としての地位確認、損害賠債等求めた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等
裁判年月日 1983年3月17日
裁判所名 神戸地尼崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 682 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1150号6頁/労働判例412号76頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―始末書不提出〕
 ところで、これら被告が提出を命じた文書は、始末書、反省文、謝罪文、質問表等その都度その文書の性格や趣旨が多少相違しているが、いずれも原告に対しそれまでの言動について反省し、以後被告の方針や指示に従い、職場規律に反する行為をしないという意思を確認しその表明を求めるものである点は共通している。これら始末書や謝罪文等の提出を命ずるのは、譴責という懲戒処分を実施するため、あるいは従業員に自己反省をなさしめ、職場規律の保持という目的を達成するための手段にほかならないから、使用者が雇用契約による労務指揮監督権に基づいて労務提供の場において発するところの業務命令とは別異の事象に属するものである。そればかりではなく、被告の提出を求めている文書は、単なる事実のてん末書というものではなく、自己の誤りを陳謝し、再び同様の職場規律違反を犯さないことを確約する趣旨のものも含まれているが、そのような文書の提出自体本人の意思に基づくほかない行為であって、個人の意思の自由を尊重する現行法の精神からいって、これを、その不提出に対し懲戒処分を加えることによって、強制することは許されないものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―処分無効確認の訴え等〕
 ところで、右のうち宵夜勤命令違反については、前述のとおり、原告は同年六月二四日に譴責の、同年七月一二日に出勤停止一四日間の、各懲戒処分を既に受けているものであり、これを重ねて本件解雇における解雇事由として取り上げることは、一事不再理の原則の趣旨に照らして許されないものと解するのが相当である。したがって、右各宵夜勤命令を拒否したことは、それを次の懲戒処分をなすについての情状の一つとして考慮することはできても、新たな懲戒処分をなすべき直接の事由とすることはできないから、このことは本件懲戒解雇事由とはなり得ないものといわなければならない。