全 情 報

ID番号 01900
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 茨城急行自動車事件
争点
事案概要  従業員と生命保険会社とが個人契約している保険契約の保険料を従業員の賃金から控除し一括して支払うことで会社が得ていた事務手数料を横領したとして懲戒解雇された従業員が、右解雇は解雇権濫用にあたり無効である等として地位保全等求めた仮処分申請の事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1983年7月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ヨ) 2356 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1095号152頁/労経速報1164号7頁
審級関係
評釈論文
判決理由  ところで、前示のような懲戒規定を有する雇用主は、懲戒解雇事由に該当する行為のあった従業員に対してこれを懲戒解雇とするか、あるいはこれを軽減して他の軽い処分を選択するかについては、一般に広い裁量権を有するものと解されるところである。しかしながら、この裁量権の行使の結果、従業員間の処罰に合理的な理由もなく著しい不均衡が生ずることは法の許すところではなく、したがって右裁量の自由も無制限のものではない。そして、従業員間の処罰の均衡は、類似の事案により同一機会に処罰を受ける従業員間にあっては特に強く要請されるものと思料する。
 《証拠略》によれば、申請人の前任者である申請外Aも、申請人と同様、保険相互会社からの事務手数料を着服したこと(ただし、同人の取得額は日本生命保険分としては一三カ月分、富国生命保険分は三四カ月分である。)について申請人とほぼ同じ頃に被申請人から懲戒処分を受けるに至ったが、その処分は五日間の出勤停止処分であったこと、被申請人が申請外Aの処分を申請人に比べて軽くしたのは、着服金額が申請人に比べて少ないこと、着服時期が七年以上も前のことであり刑事訴追も不可能になっていること、本人が深く反省していることなどを理由としたことが一応認められる。
 被申請人が情状として考慮した右事情のうち、着服金額の多寡および反省の情を考慮に入れることは相当であると思われるが、刑事訴追の可能性については刑事独自の問題であるうえ、現に申請人に対する刑事責任も追求していないのであるから、これを考慮に入れることは相当ではなく、むしろ、申請人に先行する右申請外人の本件事務手数料の取り扱い方が先例となって申請人の行為が誘発されたことに思いを至せば、前任者としての右申請外人の責任は取得金額が申請人よりも少ないことを考慮しても申請人のそれに劣るものではないと評価することも可能であり、その他先に認定した諸事情を勘案しても、被申請人が、申請外人を五日間の出勤停止処分にとどめたのに対し、申請人を懲戒解雇処分に処することは、一般社会通念に照らして不均衡に失し、処分の選択に関する裁量の範囲を逸脱したものといわざるを得ず、したがって、申請人に対する本件懲戒解雇処分は解雇権の濫用として無効のものであると解する。