全 情 報

ID番号 01981
事件名 地位保全、金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 不動信用金庫事件
争点
事案概要  融資先に高利金融業者を仲介、斡旋したことが就業規則の懲戒解雇事由に該当するとされたが普通解雇にとどめられた銀行員が、右解雇は解雇権の濫用ないし不当労働行為にあたり無効であるとして地位保全等求めた仮処分申請事例。(申請一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1983年12月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和57年 (ヨ) 5265 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1180号3頁/労働判例424号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由  次に、就業規則九条一七号には、「職員は事由の如何を問わず金銭貸借又はその保証もしくは仲介をしてはならない。」と規定されていることは前記のとおりである。申請人の前記のような口添えが右規定にいう「仲介」に該るとすることに疑問が残るところではあるが、右規定には出資法三条のような制限が付されていないのであるから、申請人の前記行為は右規定に該当すると言えないこともない。しかし、就業規則の右規定の文言が無制限であることを考えると、就業規則九条一七号違反行為が直ちに懲戒解雇理由の一つである「不正不義の行為をして行員としての体面を汚したとき」に該当すると結論づけることもできない。申請人の前記行為が右懲戒解雇理由に該当するか否かについてはその行為をするに至った動機等一切の事情を考慮して判断すべきである。
 (中 略)
 右事実によれば、申請人がA会社に金融業者を紹介することについてかならずしも上司に秘密にはしていなかったこと、申請人の上司は申請人の意図を察知しえた状況にあったのであるから、適切な指導、例えば被申請人の宮次商事に対する態度が倒産やむなしというのであれば、その旨申請人に伝え、申請人に前記の行為を回避させ得ることも容易にできたものと考えられるのである。
 以上の事情を総合して判断するならば、申請人の前記行為が、「不正不義の行為をして行員としての体面を汚したとき」に該当しないことは明らかであるというべきである。
 また、就業規則七五条には、解雇事由として三つの条項が定められていることは前記のとおりである。右条項のうち、(1)は試用期間中の職員に関するものであり、(3)は精神的または肉体的な故障及び疾病のある職員に関するものであるから、申請人と無関係の事由であることは明らかである。次いで、(2)には「勤務成績が著しく不良で職務の遂行に適さないと認めたとき」と定められていることは前記のとおりである。申請人がA会社にB会社を紹介し、口添えした前記行為が右(2)の事由に該当しないことも多言を要しないところである。
 5 以上のとおり、被申請人が主張する懲戒解雇事由については疎明がなく、申請人には懲戒解雇すべき事由がないのであるから、右事由が存することを前提にした普通解雇はその前提を欠き、理由がないものであり、その他普通解雇事由を疎明するに足りる資料もない。それゆえ、本件解雇はその合理的理由を欠いているので、解雇権の濫用として無効というべきである。