全 情 報

ID番号 03013
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 都島自動車商会事件
争点
事案概要  会合への出席をうながす業務命令違反、勤務成績不良、管理職に対する暴言を理由とする第一次懲戒解雇は右の事実がなく無効であるが、タクシー乗務員としての職歴を秘匿して同職種に従事する者として雇用されたことに対する懲戒解雇は有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1987年2月13日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 2138 
裁判結果 却下
出典 労経速報1285号14頁/労働判例497号133頁
審級関係
評釈論文 田畑豊・昭和62年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊677〕394~395頁1988年12月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 (1) 昭和六一年四月一七日の会合に関する経緯は前記のとおりであって、申請人に対し、業務命令として、会合へ出席せよと命じられたとは認めがたく、申請人が会合に欠席したことをもって、規則七八条五号該当の行為と目することはできない。
 (2) また、申請人の営業成績が不良であることは前記のとおりであるが、同条一九号はその文言上からも、成績不良者であって、度々注意を受けながらなおも、成績が向上しない場合に初めて適用されると解されるが、被申請人において、申請人に対し、第一次解雇に至るまでに、この事実を指摘し、その反省を促すなどの処置をとった事実はなく、申請人に同条一九号にいう「勤務成績の不良重なる」事実があったとはいえない。
 (3) 申請人が昭和六〇年六月、一〇月に被申請人の管理職に対し前記の言動に及んだことは、相当とは言いがたいものの、被申請人は申請人の右言動については、当時なんらの処分を行わなかったもので、右事実からすれば、被申請人としても申請人のかような言動をさほど重大なものと考えていなかったことが窺われるのであって、申請人の右行為をもって同条二〇号に該当する事実があったとはいえない。
 以上のとおり、申請人に、被申請人主張の規則各号に該当する行為があったものとは認められず、第一次解雇はその余につき判断するまでもなく無効である。
〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 (一) 一般に企業が労働者を採用するにあたって履歴書を提出させ、あるいは採用面接において経歴の説明を求めるのは、労働者の資質、能力、性格等を適性に評価し、当該企業の採用基準に合致するかどうかを判定する資料とするためであるから、かかる経歴についての申告を求めることは企業にとって当然のことといわなければならない。従って、その反面として、企業に採用され、継続的な契約関係に入ろうとする労働者は、当該企業から履歴書の提出を求められ、あるいは採用面接の際に経歴についての質問を受けたときは、これについて真実を告げるべき信義則上の義務があるというべきであり、これを偽り詐称することは右にいう信義則上の義務に違背するものである。
 (二) タクシー業を経営する被申請人にとっては、面接時に、申請人が過去にタクシー乗務員として稼働した事実が明らかにされていれば、その点につき調査を遂げ、申請人の能力・成績等を判断し申請人の採否の決定そのものについての重要な資料とすることが可能であったし、採用後の指導・監督についてもその内容がタクシー乗務員の経験の有無により異なった可能性があったといえるが、申請人は、被申請人に提出した履歴書の職歴の記載は、前記のとおりであって、申請人はその職歴のうち採否の決定に重要な影響を及ぼすものについて、あえて記載しなかったのであって、被申請人が履歴書の提出を求めた趣旨は没却されたに等しく、申請人の経歴詐称を軽視することはできない。
 そして、被申請人が、本件仮処分の審尋手続中にA株式会社に申請人の稼働状況等を問合わせたところ、得られた回答は前記のとおり、はかばかしいものではなかったのであって、被申請人が面接時に申請人の経歴が判明していれば、その採否はもちろんのこと、仮に採用された場合でもその指導監督についても重要な差異が生じていたものであって、申請人の経歴詐称を理由とする懲戒解雇は相当で、第二次解雇は有効である。