全 情 報

ID番号 03027
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ニチバン事件
争点
事案概要  組織の編成替え、合理化等を理由とする配転命令につき、人選には合理性があり、配転命令権の濫用とはいえないが、不当労働行為として無効であり、右命令拒否を理由とする懲戒解雇も無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1987年3月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ヨ) 2294 
昭和54年 (ヨ) 2327 
裁判結果 却下
出典 労働判例495号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 3 以上に認定した事実に基づいて本件配転の人選の合理性について検討する。
 埼玉工場から本件配転の対象人員数として債務者会社が組織の編成替え、合理化等によって製造課から二九名をねん出することができるとの方針を決定したこと及び埼玉工場からの配転先としておもに関東以北の支店、出張所を予定したことについては、債権者らも特別その合理性を争っておらず、また、前記認定した事実からして合理性を有するものと認めることができる。ただ、埼玉工場からの配転先として他に距離的にも近接した大阪工場や安城工場が存在しているのにもかかわらず広島及び福岡支店にもあえて配属先を求めたことの理由については債務者会社において十分な説明もなく、多少疑問がないではないが、この点については一連の交渉の過程において組合及び債権者らが格別問題とした形跡もなく、また、このような配属先予定地の決定それ自体が合理性を全く欠くというものでもないから、このことだけをとらえて右のような債務者会社の方針決定がすべて合理性を有しないものということはできない。
 次に、人選の基準の合理性について検討すると、債権者らはこれについて、人選基準の設定に当たっては運転免許の有無とか工業高校卒とかの客観的な基準を考慮すべきであるのに債務者会社が行った人選基準は種々の要素につき相対的、総合的な判断を行ったというにすぎず、し意的な人選を可能とするものであって合理性を有しない旨主張する。しかし、いわゆる配転の際の人選基準なるものについては唯一絶対の客観的基準が存在するものではなく、当該会社の業務内容、配転人員数、配転の実施前後における会社の組織運営に対する影響度その他の会社を取り巻く状況等を勘案して合理的なものと認められれば足りるものと解されるところ、前記認定の人選基準は一応合理的なものと認めることができる(運転免許の保有の有無については(証拠略)によれば、中期経営計画によってセールスカーの増強が図られたとはいえ必ずしも販売員全員にセールスカーが行き渡っているものではないことが認められるし、運転免許の取得はそれほど困難なものでないことは公知の事実であるから、人選の時点において運転免許を保有しているか否かをそれほど重視する必要はない。また、工業高校卒であることが直ちに販売員として不適格であるということもできない。)。また、債権者らは債務者会社の真実の人選基準は債務者会社にとっての危険思想の持ち主、誓約署名に抗議した者、工場にとって不要の者というものである旨主張し、債権者前の本人尋問の結果にはこれに沿う部分があるが、同債権者の供述はその内容において一貫しておらず、直ちに信用することができない。
 そして、以上のような事情に加えて債務者会社が債権者らを本件配転の対象者として選出した前記認定の理由とされる内容を考慮すると、債務者会社が債権者らを配転対象者として選定したことについてはその合理性を肯定することができる。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 前記のように人選基準や具体的な人選全般においては一応の合理性が認められるとはいっても、埼玉工場からあえて広島支店への配転を考案した理由が疑問の余地がないとはいえないこと、本件配転の申入れ以前に債務者会社は同債権者が結婚したのを知っているのに本件配転の人選に当たって単身者であることを前提に人選を行ったこと、及び、当時組合と債務者会社とが激しい対立をしており、組合内部でも重大な組織問題が生じていたという状況の下で、これまで支部三役の配転の事例がないのにもかかわらず、組合及び支部の活動に中心的な地位を占める支部書記長である同債権者を遠隔地である広島に配転することとしたことは、組合活動に著しい障害を生ぜしめるものというほかはないこと等の事実からすれば、同債権者に対する配転は、債務者会社の不当労働行為意思がその決定的な理由となって行われたものと推認するのが相当であり、他にこれを覆すに足りる疎明もない。よって、同債権者に対する本件配転は、不当労働行為であって、無効であるというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 4 権利濫用との主張について
 債権者らは本件配転は債務者会社が配転命令権を濫用したものである旨主張するが、これまで述べてきたところからすればそれを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる疎明もないから、採用することができない。