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ID番号 03129
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 三菱重工事件
争点
事案概要  造船所で働く下請労働者の難聴につき、元請会社に音源の改善を怠ったこと等の安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1984年7月20日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 1122 
昭和53年 (ワ) 832 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 タイムズ533号86頁/労働判例440号75頁
審級関係 控訴審/04049/大阪高/昭63.11.28/昭和59年(ネ)1502号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 (一) 安全配慮義務
 雇傭契約における使用者の労働者に対する義務は、単に報酬支払義務に尽きるものではなく、当該雇傭契約から生ずべき労働災害の危険全般に対して、人的物的に労働者を安全に就労せしむべき一般的な安全保証義務ないし安全配慮義務をも含むものと解するのが相当である。
 また、右義務は、より一般的には、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである。
 (二) 下請関係と安全配慮義務
 1 ところで、使用者の労働者に対する安全保証義務はひとり直接の雇傭契約についてのみ生ずべきものではなく、事実上雇傭契約に類似する使用従属の関係を生ぜしめるべきある種の請負契約、たとえばいわゆる社外工のごとく、法形式的には請負人(下請負人)と雇傭契約を締結したにすぎず、注文者(元請負人)と直接の契約を締結したものではないが、注文者請負人間の請負契約を媒介として、事実上、注文者から、作業につき、場所、設備・機械等の提供を受け、指揮監督を受ける等に至る場合の当該請負契約においても、右の義務は内在するものと解される。
(中略)
 3 不可抗力の主張について
 (1) ところで、被告は、前記工法の変更等によって被告Y会社における騒音は著しく減少したものであり、かつ前記衛生面における対策ことに耳栓の支給及びその装着指導等をなしたものであるから、被告のとるべき措置としてはこれらで十分であり、これらの措置にもかかわらずなおかつ騒音性難聴が発生したとすれば、それは不可抗力であると主張する。
 被告Y会社においてとられた工法の変更及び衛生面の対策は前認定のとおりであり、被告が一定の騒音性防止策を講じてきたことは明らかである。もっとも、前認定のとおり被告の工法の改善等は逐次行われたものであり、しかも、これら改善等が相当進行したと認められる昭和四八年、三〇年五二年、五三年における騒音の状況は前記第二、三、(三)において認定したとおりであって、騒音性難聴を生ぜしめる騒音が消失したとはいい難い。
 次に、耳栓についてみると、耳栓が製造元のパンフレットに記載されたとおりの遮音効果を有するとすれば、相当の減衰力を生ずるはずであるが、実際に右パンフレットのとおりの効用を発揮したと認むべき証拠は乏しく、JIS規格のとおりの効果があるとすると、たとえば四〇〇〇ヘルツの騒音に対しては二五デシベルの遮音効果があるので、一一〇ホンの騒音は八五ホンに減衰されることになるから、これを常時完全に装着すれば騒音性難聴は相当防止しうることとなる。しかしながら、耳栓を着用してもなお有害な騒音もあるのであるから、耳栓の効果にも限界があり、かつ、前認定のとおり耳栓を長年月にわたり常時完全に装着することには困難な面があり、しかもその責を作業者側のみに帰することは相当でない。
 (なお、被告Y会社において前認定のとおり労災保険上相当多数の騒音性難聴者の認定が行われていることにかんがみると-労災保険の認定の実情は前認定のとおりであり、やや被害者救済を優先させる傾向がないではないが、この点を勘案しても-被告のとった措置のみでは、なお十分でなかったとしなければならない。)
 右に検討したとおり、被告が騒音性難聴発生防止のために一定の措置をとったことは認められるものの、これをもって十分であったとは認め難く、原告らに騒音性難聴が発生したとすれば、これを不可抗力によるものとはなし難い。