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ID番号 03132
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 高知営林署事件
争点
事案概要  営林署職員がチェンソーによる伐木作業に従事したことにより白ろう病にかかったとして、国の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求につき、国に右義務違反はないと判断した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1984年9月19日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ネ) 176 
裁判結果 取消(上告)
出典 時報1132号31頁/タイムズ535号116頁/労働判例440号39頁/訟務月報31巻5号1010頁
審級関係 一審/03409/高知地/昭52. 7.28/昭和49年(ワ)10号
評釈論文 岸本隆男・昭和59年行政関係判例解説210頁/荒木誠之ほか・季刊労働法135号103頁/細川汀・労働経済旬報1331号4頁/西村健一郎・ジュリスト827号46頁/林弘子・昭和59年度重要判例解説〔ジュリスト838号〕231頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 控訴人国は、その雇用している被控訴人ら一二名を含む公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理または公務員が上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負担しているものと解すべきであり、右の安全配慮義務の具体的内容は当該公務員の職種、地位及び安全配慮が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである(最高裁昭和五〇年二月二五日第三小法廷判決、民集二九巻二号一四三頁)から、本件の場合、林野庁がその雇用する伐木造材手、植林手にチェンソー等を初めて使用させるにあたり、その機械使用に基因して、労働に支障を生ずる程度以上の人身障害が発症することが予見できた場合には、その実用化を差し控え、右人身障害を抑止しうる方法が研究開発されるのを待って、実用化に着手して、その危険を回避すべき義務があるが、チェンソー使用業務につき右程度の危険を通達予想し得ない場合には、その危険回避措置をとる必要はないと解すべきであり、またチェンソー等の使用によって、右程度の危険が現実に発生した場合には、国は当然にその危険を回避する措置をとらなければならず、その措置の履行に関して不完全なものがある場合には、国に帰責事由がないと認められる特段の事情のある場合を除き、債務不履行の責任を免れないものと解するのが相当である。
(中略)
 <証拠>によると、昭和四四年一一月農林省林業試験場の機械化部長Aがその場報で「現在問題となっているチェンソー等の使用による振動障害等は、一〇年前の昭和三四年にすでに同試験場の作業研究室で、実験測定を行ない、この種、振動工具の使用によりその作業員にレイノー現象が発症することを報告するとともに当時林野庁において折角の右研究報告が精読されていなかったと思われる。」旨記述していることが認められ、試験研究の成果が行政に生かされないという指摘は正しいものを含んでおり、また右の昭和三四年の実験研究とは前記第三、三、8のB、Cが行った研究を指すものとみられるが、その一人である当審証人Cは、右研究結果は林業試験場の内部研究として林野庁等には報告していない旨証言しているし、その研究結果にもとづき右C、B両名が雑誌や単行本として出版した振動障害についての所見に関して昭和四一年ころまで労働衛生医学の専門家を含め、関係各界に関心を寄せた者がほとんどなかったことにかんがみ、林野庁や労働省当局において林業試験場の右研究結果に注目しなかったとしても、安全保持義務の懈怠があったとは認めるのは相当でない。
 さらに、別表第二(101)で、Dらが昭和四〇年二月、林野庁雇用の伐木造材手中にチェンソーの使用により、発症したレイノー現象等罹患の振動障害者が相当数にのぼっていることを発表してから、人事院規則を改定して、その疾患を公務上災害と指定するまでに一年四か月の期間が経過したが、昭和四〇年二月当時までにおけるわが国の右振動障害に関する医学的知見及び行政上この障害を職務上災害と認定するための諸規定を改定整備するために労働省、人事院、林野庁が前記第三の三の16ないし24のとおり講じた各措置にかんがみると、人事院規則の右改定までの控訴人の処置に安全確保上の債務不履行があったと認めるのは相当でない。
 <反証排斥略>、被控訴人らのこの点に関する主張は採用できない。