全 情 報

ID番号 03144
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 倉田学園事件
争点
事案概要  私立高校の就業規則に始終時刻変更を命じうる旨の規定がある場合に、校長が生活指導係の教諭に対して一年間、始業時刻の一五分前から玄関前で生徒指導を命じたことは有効であり、右命令拒否を理由とする非常勤講師への降職処分も有効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1984年12月27日
裁判所名 高松地
裁判形式 決定
事件番号 昭和57年 (ヨ) 104 
裁判結果 一部却下、一部認容
出典 労働民例集35巻6号744頁
審級関係 控訴審/03995/高松高/昭63. 8. 9/昭和60年(ラ)6号
評釈論文 香川孝三・ジュリスト875号268頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 そこで前記認定の事実に基づき考察するに、本件命令は、前年度の昭和五五年度ころから高松校の生徒の服装の乱れが目立ち始め、それが問題化したことから、その対策として発せられたものであって、その当時服装指導の必要性があったことは否定できず、債権者両名が主張するごとくA校長において組合員である債権者両名を弾圧するため、昭和五六年度の校務分掌を決定するに際し、生徒指導部の生活指導係(校内担当)に債権者両名を配属し、本件命令を発したことを認めるに足りる疎明はないこと(なるほど疎明資料によれば、「組合に対する姿勢として徹底的に差別待遇し、対組合方針として皆のいやがること」などと記載されたB教頭作成のいわゆるBメモの存在は認められるけれども、B教頭が右メモを作成した状況は明らかでなく、同人が組合弾圧の目的で右メモを作成したことを認めるに足りる的確な疎明はなく、したがって、右メモの存在から本件命令が組合員である債権者両名に対するいやがらせの目的でなされたものと推認することはできない。)、また、本件命令の内容は債権者両名とCの三名が一年間毎朝一五分早出して玄関前で服装指導を行うというものであるところ(終業時間も一五分繰り上がる。)、確かに一年間というのはやや長すぎるきらいはあるものの右服装指導というものの性格、必要性からしてある程度長期にわたる継続的指導が必要であると考えられるし、始業時間の繰上げも一五分にすぎないから、本件命令が著しく苛酷な内容の業務命令であるとは認め難いし、その内容が不鮮明であるともいえないこと(なお、服装指導の方法として前記のとおり生徒指導部会の決定した生徒指導部全員による集団指導体制で行うということも十分考えられるのであるが、いかなる方法により実施するかは命令権者の合理的な裁量に委ねられているというべきであって、本件命令が右裁量権の濫用、逸脱とみられるような社会通念上不相当な内容のものであるとは認め難い。)、更に、債権者両名は、本件命令に従って毎朝午前八時一五分から同八時四〇分まで服装指導を行うことにより職員朝礼に出席できなくなること、時間割係の仕事と重復すること、毎朝子供の送り迎えをしなければならない家庭の事情があること等の不利益をこうむると主張するが、右各事由と疎明資料により認められるそれに対する債務者の対応の状況等をみると、債務者の職員として本件命令を受けながらそれを拒否するのも已むを得ないというべき社会的相当性や客観的緊急性があるものとは認め難いこと等を総合勘案すれば、本件命令には十分合理性があるものと認められ、したがって本件就業規則一五条但書の許容範囲内であるというべきである。
 債権者X1及び同X2は、前記認定のとおり本件命令を受けて以来、生徒指導部会企画の服装検査には参加するも校長からの命令には従おうとしなかったもので、債務者側から注意、警告、出勤停止処分と度重なる反省の機会にも態度を改めず、右処分ののちもなお本件命令が続いているにも拘らずかたくななまでに従来の態度を変えなかったものである。これらの態度が高松校におけるこれまでの対立した労使関係、とりわけ双方の間で腹蔵なく話合える場がないことに基因することは容易に推測しうるところではあるが、労使関係の対立を生徒への指導教育の場に持ち込むべきではなく、前記認定のような服装指導の重要性、必要性に鑑みれば、右債権者らは、まず高松校教諭として、校長の命令による服装指導に当たるべきであり、これに違反した責任は大きいと言わざるを得ない。校長としても職務命令を出すに際して債権者らが自己に対立する組合活動家であることのゆえをもってことさら不利に扱う意図をもってなすことは、厳に戒しめられるべきであるが、本件では前記のとおり校長が右の意図をもって本件命令に及んだと証明されない以上、債権者らの行為は、本来従うべき職務命令を無視し、職場の規律及び秩序を乱したものとの評価を受けても已むをえないものである。
 以上の点に、疎明資料から認められる債権者両名の過去の処分歴を併せ考慮するならば、債務者の側にも本件命令の下し方、その後の対応等につき若干配慮を欠いた点があることを考慮に入れても、学園秩序の維持のためになされた本件降職処分が、客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に該当するとまでは認めることができない。
 そうすると、本件降職処分が懲戒権者たる債務者の権利の濫用による無効な処分とみることはできないものというべきである。