全 情 報

ID番号 03159
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 郵政省職員事件
争点
事案概要  公務災害としての疾病に罹患している者に対しては、作業内容によって症状が増悪しないように抑制すべき安全配慮義務があるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1983年5月24日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 1415 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1085号112頁/タイムズ509号164頁/労働判例411号43頁/労経速報1165号9頁/訟務月報29巻12号2201頁
審級関係
評釈論文 高井伸夫・労災職業病の企業責任〔労災職業病健康管理【1】〕250頁/須藤典明・昭和58年行政関係判例解説167頁/藤岡康宏・判例評論308号20頁/野村好弘ほか・地方財務357号57頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 (1) 被告は、労働基準法、労働安全衛生法(昭和四七年法律第五七号)、労働安全衛生規則及び郵政省健康管理規定(昭和四〇年郵政省公達第六九号)等の趣旨に基づき、常に局職員の健康、安全のため適切な措置を講じ、職業性及び災害性の疾病の発生ないしその増悪を防止すべき義務を負っているだけでなく、職業性又は災害性の疾病に罹患していることが判明し又はそのことを予見し得べき職員に対しては、疾病の病勢が増悪することのないように疾病の性質、程度に応じ速やかに就業の禁止又は制限等を行うことはもとより、場合によっては勤務又は担当職務の変更を行う等適切な措置を講ずべき注意義務を負っているものというべきである。
(中略)
 (3) 前同様右の説示認定からすると、原告は、昭和四四年一〇月一七日から翌四五年九月一〇日まで第二集配課に属してはいたが、局の指示により外勤作業には一切従事せず、道順組立等の局内作業(前掲各証拠によれば、この作業は座位の軽作業であり、原告の左ひざの疾病を増悪させるものでなかったことが明らかである。)に従事したにすぎないことが明らかであり、右の期間中に被告が原告に対してとった措置につき違法のかどはない。
 また、《証拠略》によると、郵政省の内務職は郵政省職員採用規定(昭和四一年公達第一〇二号)により試験対象官職とされていることが認められるのであるから、前記のように、局が昭和四五年八月四日原告に内務職への変更試験を受けさせ、被告において右試験に合格した原告を、同年九月一〇日に内務職たる普通郵便課事故係に配置換する措置を講じたことについてももとより違法の点はなく、むしろこれは適切な措置であったとみなければならない。
 しかしながら、右事故係において原告の従事した作業は被告の主張するような規定違反郵便物の処理等三種類の座位作業に限定された作業でなく、それをも含み多種類にわたる作業であることは前記認定のとおりであって、原告が右事故係として、区分作業等の立位作業や、結果的に局内を相当に歩き回らざるをえない作業に従事することを余儀なくされ、また一時的にしろ局内を歩き回わる回数のより多い夜勤をもせざるをえず、これらのことが原告の左ひざの疾病の病状の増悪を招いたこともまた前認定のとおりである。
 そして、前同様前記説示、認定及び弁論の全趣旨からすると、被告が原告を右事故係に配置換した時点において、そうでなくても、その後原告が右事故係の作業に従事していた期間中の早い時期において、被告が、右事故係における原告の作業内容を座位作業に限定するなどして、原告の左ひざに負担のかからないように配慮を尽していれば、原告の左ひざの疾病の症状増悪の抑制、回避の蓋然性や前記の原告の第二回手術、第三回手術の回避の可能性等があったと推認するに十分である。
 右のとおりであって、結局被告において、原告が右事故係において作業をするにつき、原告の左ひざの疾病の症状増悪を抑制、回避させるよう配慮すべき義務を尽さなかった点に被告の義務違反があるとみるべきであり、被告は、この点につき原告に対し、安全配慮義務違反の責任を免れないものである。